ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460327hit]

■墨攻、棚の隅、Starfish Hotel、長州ファイブ、パリジュテーム、天国は待ってくれる、蒼き狼
そのトークショウによると、撮影は20日足らずで行われたも
のだそうだ。上映時間も85分で比較的短い作品ではある。し
かし、作品はそつなく丁寧にまとめられていた感じがした。
原作物でもあるし、脚本もしっかりしていた感じで、しかも
大杉クラスの主演がいれば、新人監督には最高のデビュー環
境と言うところだ。
物語的には、実に頭の良い登場人物たちばかりの話で、何事
にも実にスマートに対応してくれる。物語の進行上もほとん
どトラブルも発生しない。トークショウでも、淡々とした日
常を切り取ったような作品と称していたが、でも、正直には
これがちょっと物足りない。
僕は原作を知らないので、原作もこういう雰囲気なのかも知
れないが、登場人物たちが頭が良過ぎて、その結論に達する
道筋が少し唐突に感じられてしまうのだ。人間ならそこに何
かの葛藤や機微があるはずだが、それが描き切れていない感
じもした。
実際、世間がこんなに物分りの良い人ばかりだったら、争い
事など起こらなくて平和だろうという憧れは持つ。そんな理
想郷を描いた作品とも言えるかも知れない。でも、そこに少
し、隠し味程度でも何かが描かれたら、もっと満足できたか
なと思ってしまう。そんなシーンを後10分ほど欲しかったと
いうところだ。
とは言え、最近の日本映画はやたらと意味不明の作品が多く
て困惑することが多いが、そんな中ではしっかりとした作品
を見せてもらい、その点では満足した。
公開は、2月に名古屋と高知で先行された後、東京は3月か
ら下北沢で上映される。

『Starfish Hotel』
ケンブリッジ大学卒業、日本在住のイギリス人で、来日して
から長編映画を撮り始めたというジョン・ウィリアムス監督
の第2作。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をモ
ティーフに謎めいた世界が展開される。
主人公はあるミステリー作家の本を読み続けている。その作
家の本は毎作ベストセラーになるが、その出だしはいつも同
じで、女性が消えるところから始まるという。そしてその作
家の新作が発売された日、主人公の妻が行方不明となる。
主人公の苗字が有須で、怪しげなウサギのキグルミを着た男
が出没したり、ワンダーランドという名の秘密クラブがあっ
たり、そこで穴に落ちたりと、『不思議の国のアリス』はも
ろに利用されている感じだ。
ただし、物語の展開で重要なのはそれより、題名と同じ名前
のホテルの方。大正年間に立てられた会津の漆器店を借りて
撮影したというホテルの外観はなかなかのものだった。が、
さて、これが『アリス』とどう関係があったかというと、今
一つピンと来ないのが惜しい感じだ。
物語は、現実と主人公の夢の世界とが入り混じって展開され
るもので、それがどこで区切られるかが曖昧にされている。
特に、ホテルの情景が夢か現実かは、物語を最後まで引っ張
って行く要素となる。
東京の町並と、雪に埋もれた東北の風景も、現実と夢の世界
が交錯しているようで、いいアクセントになっていた。さら
に、何度か登場するミステリー作家の姿も、夢か現実か曖昧
にされており、その辺の展開は面白く感じられた。
とまあ、雰囲気は実に良く出ている映画なのだが、正直に言
ってしまえば結末がちょっと物足りない。と言うか、単純に
は、最後に説明される夢と現実の種明かしが、ちょっと辻褄
を合わせ過ぎているのではないかと思えてしまったものだ。
多分、脚本も書いている監督が真面目で、これくらいの種明
かしをしなければ気が済まなかったのだろうけど、それで全
てが現実に曝け出されてしまうのが、折角そこまでに盛り上
げてきた雰囲気を削いでいるような気がした。
他にも解けていない謎は沢山残されているのだし、やるなら
もっと全てを曖昧にしたままでも、ここまで映像的な雰囲気
を盛り上げてくれていれば、観客はそれだけで満足するので
はないかとさえ思ったものだ。
この雰囲気はそう簡単に造り出せるものではない。その点で
は、監督はもっと自信を持って良い。この雰囲気をまた味わ

[5]続きを読む

12月28日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る