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On the Production
by 井口健二
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■デジャ・ヴ、エンマ、孔雀、ピンチクリフ・グランプリ、フランシスコの2人の息子、モーツァルトとクジラ、輝く夜明けに向かって
して死亡。そして徐々に記憶が甦り始めるが…
物語は、9月に紹介した『アンノウン』に似た感じだが、本
作の製作はいつごろのものか。プレス資料にはその辺のイン
フォメーションは紹介されていなかったが、時間的にヒント
を得たということはなさそうだ。
ただし、『ソウ』以降のソリッドシチュエーションスリラー
の流れを汲む作品であることは間違いない。一方、ビニール
袋に入った透明の液体にはオウムのサリンを連想させるとこ
ろがあり、その辺の無気味さは当時を知るものにはかなりの
インパクトだった。
とは言うものの、物語全体のテーマが今一つ見えてこない。
題名からして、多分エンマ大王による裁きが行われているの
だと思われるが、これによって犯罪者に地獄の苦しみが与え
られるものでもなく、ただ恐らく後悔の念は生まれるかも知
れないが、それもあまり明確なものではない。
脚本は、『シムソンズ』などを手掛けた大野敏哉、監督は、
『富豪刑事』などの長江俊和ということで、判って作ってい
るものだと思いたいところだが、正直に言って、本作の狙い
がサスペンスなのか、ホラーなのか明確でない感じだ。
それがサスペンスなら、話はぐちゃぐちゃでも構わないのだ
が、ホラーを狙うのなら、もう少し話をはっきりさせた方が
良い。
結局ホラーというのは、物語の中では理路整然としてるから
恐怖を生み出すもので、そこが曖昧だと恐怖感には繋がらな
い。何でもありでは、恐さも何もなくなってしまう。その辺
が日本の映画人には理解できていないことが多いようだ。

『孔雀』“孔雀”
文化大革命後の中国地方都市を舞台にした3人兄弟の物語。
長男と長女と次男の3人兄弟。長男は幼い頃の病で精神傷害
を負っており、両親はその長男に掛かり切りになっている。
そのため長女も次男も両親には不満を持っており、特に長女
には奇矯な行動が目立っている。
そんな長女が、落下傘部隊の降下訓練に遭遇し、1人の兵士
を好きになる。そして彼女は落下傘部隊に志願するのだが…
結局、夢破れた長女はその後もいろいろな男に手しては、失
敗を繰り返して行く。
一方、長男は、頭の弱いことでチンピラたちの餌食にされて
いるが、それを意に介することもない。そして街で見かけた
美女に心引かれたりもするのだが…やがて一つの恋に巡り会
うことになる。
そして次男は、真面目に学校に行き成績も優秀だったが、兄
の存在が負担となり、やがて街を出て行くことになる。
12年続いた文革が何の意味も残さず終りを告げ、人民に自由
が戻ってきたとき、人々はその自由の使い方を忘れていた、
という物語が展開するものだ。
物語の背景のことは、日本人である僕には正確には理解でき
ないが、ここに描かれているのは、そんな背景を超越した家
族の物語であり、長男の立場は別としても、長女と次男の心
情は、生活習慣の違いや国家体制の違いを越えて理解できる
気がした。
そしてその一家の暮らしぶりが、チャン・イーモウ監督や、
チェン・カイコー監督作品で撮影を担当してきたクー・チャ
ンウェイの初監督作品として見事に描き出される。
時代背景は1977年から数年間ということになるが、日本人の
目で見ると昭和30年代のような、そんな懐かしさも感じられ
る。もちろん異国の物語ではあるけれど、描かれる人間の心
の物語は、時代を超えて万国共通のものだ。
長女を演じるチャン・チンチューには、ポスト・チャン・ツ
ィイーの呼び声もあるようだが、ちょっとはにかんで見せる
仕種などには『初恋の来た道』のツィイーを思い出した。
なお、前半の降下訓練のシーンで、先に降りてきた女性兵士
がツィイーに極めて似ている感じがしたが、カメオの可能性
はあるのだろうか。ウェブのデータベースでは判らなかった
が、製作者のドン・ピンは、ツィイー主演の『グリーン・デ
ィスティニー』や『ジャスミンの花開く』の製作も手掛けて
いるものだ。

『ピンチクリフ・グランプリ』“Flaklypa-Grand Prix”

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12月20日(水)
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