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On the Production
by 井口健二
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■あなたになら言える秘密のこと、鉄コン筋クリ、硫黄島からの手紙、Mr.ソクラテス、インビジブル2、カジノ・ロワイヤル、百万長者の初恋
描いた作品。
その街にはネコと呼ばれる2人の少年がいた。それぞれの名
前はシロとクロ。彼らの前には、他の街からの挑戦者も現れ
るが、そんなものは一蹴し、街を熟知した土地勘とヤクザも
震え上がる暴力で街を守っている。
しかしその街にも変化の波は押し寄せて来る。古い町並を破
壊し、「子供の城」と呼ばれるアミューズメントパークを中
心とした再開発が進められているのだ。そして、その再開発
に加担するヤクザたちは、邪魔になるネコたちを排除しよう
としていた。そのため送り込まれた3人の殺し屋や、ヤクザ
内の抗争、さらに警察の動きなどが交錯して巨大な群像劇が
描き出される。
監督のマイクル・アリアスはカリフォルニア出身で、『アニ
マトリックス』のプロデューサーなども務めているが、元々
はCGI技術者。そのアメリカ人が、10年ほど前の来日中に
出会った原作の虜となり、同じく『アニマト…』に関わった
STUDIO4℃と共にこの作品を作り上げた。
物語的には、主人公たちが空を飛んだり荒唐無稽なところも
あるが、それがアニメーションとして提示されると、一種の
心象という感じにもなって、抵抗感が薄らぐ。これもアニメ
ーションの特性を活かした作品と言えそうだ。
しかも描かれる子供たちの躍動感は、プロダクションノート
によると、フェルナンド・メイレレス監督の『シティ・オブ
・ゴッド』が参考資料として配られたということで、その意
図がよく判る作品になっている。
確かに暴力描写などはかなり過激だが、それ以前に、そこに
追い詰められて行く主人公たちの心情などが丁寧に描かれ、
それは理解できるように作られている。そして何よりクロと
シロの互いに思いやる気持ちが見事に描かれていた。
このクロとシロの声を、二宮和也と蒼井優が演じているが、
二宮の抑え気味の声の調子や、蒼井の微妙なせりふ回しは、
何とも言えない情感を醸し出して見事だった。特に、蒼井の
シロは素晴らしかった。
『硫黄島からの手紙』“Letters from Iwo Jima”
10月に紹介した『父親たちの星条旗』に続くクリント・イー
ストウッド監督による硫黄島2部作の2本目。渡辺謙が演じ
る硫黄島総司令官・栗林中将を中心に、圧倒的な勢力の米軍
を37日間も足止めさせた日本軍の姿が描かれる。
物語の発端は現代。硫黄島で遺骨の収集や調査をしている人
たちが、洞窟内で地中に埋められた布袋を発見するところか
ら始まる。そこに入っていたものは…そして物語は、太平洋
戦争末期、栗林が硫黄島の総司令官として着任するシーンへ
とつながって行く。
このような布袋が本当に発見されているかどうかは知らない
が、原作になっているのは、栗林がアメリカ留学中に家族に
送った絵手紙集ということだ。その絵は映画の中にも何度か
出てくるが、そんな絵を愛し、家族を愛した男が玉砕して行
く物語だ。
何度も書いているが、基本的に戦争映画は好きではない。特
に人殺しを英雄のように描く作品は不快そのものだ。しかし
この映画にはそのような英雄は出てこない。栗林にしても、
戦略的な能力を発揮しはするが、描かれるのは現実に苦悩す
る司令官の姿だ。
それにしても、第1部に描かれたアメリカの戦費が綱渡りで
あったこと、従って、硫黄島がもう少し時間を稼げれば日本
は負けなくて済んだかもしれないということ。しかし、第2
部に描かれた日本軍の上層部の無能さ故に、硫黄島が到底こ
れ以上は守り切れなかったこと。
この2つの状況を通して見せられると、現在A級戦犯と呼ば
れている連中が本当に無能で、アメリカ軍にとって以上に、
日本国民にとって戦犯であったことがよく判る。そして、こ
んな奴らを毎年詣でている今日の政治家の馬鹿さ加減もよく
判るものだ。
実際、米艦隊がサイパンを出発したことは即刻情報が入るの
に、栗林自身、着任するまで日本海軍がすでに壊滅したこと
を知らされていなかったり…その辺の軍部の情報操作が、結
果として無意味となる玉砕を生んでしまったことを、映画は
明らかにして行く。
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11月20日(月)
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