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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2006コンペティションその2
だ。そして、惜しくも2位になった地区予選で、1位が辞退
したために転がり込んできた全国大会出場に向けて、一家総
出の旅が始まる。
何しろ長男は筆談でしか会話しないし、父親は自分の本の出
版で頭が一杯、そんな訳で各自ばらばらの一家が、末娘の晴
れ舞台のために旅を続けるのだが、使い古しの車は、途中で
クラッチが故障し、押し掛けでしかエンジンが掛からなくな
るなど波乱万丈。
そんなこんなで、最初は不承不承だった長男も徐々に心を入
れ替えて、最後は家族一丸となって行く。そんな家族再生の
物語だ。しかも、グレッグ・キニアやトニ・コレット、アラ
ン・アーキンといった芸達者に交じって、オリーヴ役のアビ
ゲイル・ブレスリンが溌溂とした演技を見せる。
きっちりと計算された脚本も見事だし、多分今年のコンペテ
ィションの中では一番完成された作品と言えるものだ。
『クロイツェル・ソナタ』
ロシアの文豪トルストイが1889年の発表した中編小説を、現
代のスイスを舞台に、イタリアの監督が映画化した作品。
資産家の息子がピアニストの女性に恋をし結婚する。女性は
家庭に入り、子供を生んで音楽からは離れるが、やがて子供
が成長すると、再び音楽への情熱が甦り始める。そして妻は
奔放に芸術家としての生活を始めるが、そんな妻に夫は嫉妬
し、それは夫婦の間に深い溝を造り出して行く。
そんな物語が、天候不順で飛ばなくなった飛行機を待つ一晩
を掛けて語られて行く。しかも、最初に「僕は妻を殺した」
と言う発言から始まるのものだ。
原作は、出版禁止の処分を受けたということだが、この映画
ではそれほど過激な描写ない。逆に、流麗とも言える映像で
魅了して行く作品でもある。監督は、ドキュメンタリー出身
ということだが、しっかりしたスタッフの支えられて存分に
物語を語っているという感じの作品だ。
なお、妻役はヴァネッサ・インコントラーダという女優が演
じているものだが、ピアノの演奏シーンは見事だった。
そして、その妻が弾き語りで“Beyond the Sea”を歌うシー
ンが終盤に登場する。この曲は元歌がフランスのシャンソン
だが、何故かここでは英語で歌われる。映画のせりふはイタ
リア語だったから、これがイタリア語で歌われても判らない
ところだが、敢えて英語で歌われたことが、夫婦の溝を見事
に描き出しているようにも感じられて出色な感じだった。
しっかりした物語で、映画的には破綻のない作品。ただそれ
がちょっと物足りなくもある。
* *
以上で今年のコンペティション部門の15本を紹介したが、
今年は昨年に比べて作品の粒は揃っていた感じだ。しかし、
全体的にはどれもが小粒で、どんぐりの背比べという感じの
コンペティションでもあった。
その中では、『リトル・ミス・サンシャイン』が頭一つ抜
け出ている感じだったものだが、ただしこの作品は、すでに
サンダンス映画祭でも絶賛を浴びていたもので、それなりの
評価は定まっている。それを敢えてコンペティションに選出
する理由が判らなかった。実際、この作品は日本での公開も
決まっているものだし、上映するなら特別招待作品でもおか
しくはないものだ。
それがコンペティション部門で上映されて、しかも審査委
員会からは監督賞と主演女優賞を贈られた訳だが、審査員の
一人が元某アメリカ映画会社の重役で、この作品がその会社
の作品であることには疑問を感じてしまう。特に7歳の子役
に与えられた主演女優賞に関しては、確かにその愛くるしさ
は好感を呼ぶが、これが果たして演技なものかどうか。その
意味では監督賞の方は納得できるが、その両方が与えられる
のは矛盾しているようにも感じた。
ただし、今年の15作品の中で純粋に女優が主演と言えるの
は、『魂燃え!』『考試』『十三の桐』と、この4作品しか
ないもので、この中から選ぶことになる訳だが、素人と子供
相手は不利とは言うものの、僕は唯一真面に演技をしていた
風吹ジュンに取ってもらいたかったところだ。
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11月09日(木)
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