ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■誰がために、風の前奏曲、セブンソード、ある子供、理想の恋人.com、イド
ろう。                        
主人公を演じるのは浅野忠信。鋭い眼光と柔和な笑顔の交錯
が魅力的な俳優だが、実は数日後に『息子のまなざし』の監
督の新作の試写会に訪れていて、周りの人と気さくに話して
いる姿に人柄を感じた。そんな普通の人間の姿がこの映画に
も感じられたものだ。                 
                           
『風の前奏曲』(タイ映画)              
タイの伝統的楽器ラナートの奏者ソーン師の生涯に基づくフ
ィクションで描かれた作品。              
1881年に生まれたソーンは、幼い頃からラナート演奏に才能
を見せるが、村落間の対抗戦まで行われる現実に嫌気を注す
父親=師匠との確執に悩まされる。しかし、彼の才能は父親
の純粋に音楽に掛ける想いも呼び起こし、音楽の道へと邁進
することになる。                   
やがて王族の演奏団にも招かれ、幾多の対抗戦を経て頂点に
上り詰めて行く彼だったが、その前に国の軍部が立ちはだか
る。その軍部は、国家の近代化を旗印に、ラナート演奏を含
む伝統芸能を規制しようとしていた…          
ラナートは、船の形の台座に木琴をハンモック状に釣り下げ
た楽器で、木琴より大きめのばちでたたいて演奏を行う。そ
の演奏はテレビの紀行番組などで紹介を見たことがあるが、
柔らかな音色のいかにも南国を思わせる楽器だ。     
しかし、この映画の中で描かれる対抗戦のシーンでは、そん
な印象を一変させる激しい曲や、予想を越える見事な演奏テ
クニックなども登場して、その演奏風景を見るだけでも充分
に楽しめる作品になっていた。             
その一方で、19世紀末から第2次世界大戦にかけての近代化
の波に洗われるタイの国情も描かれ、その内容にも興味を引
かれるものだった。特に伝統芸能を否定して近代化を進める
様子は、映画では軍部の仕業という点を強調してはいるが、
どの国も通って来た道という感じのものだ。       
映画はそんな2つの物語を、主人公の青年期と老年期に分け
て明確に描き出して行く。しかも、それぞれが分離すること
なく巧みに描き切った手腕は見事なものだった。そして、そ
の節目節目に挿入されるラナートの演奏が、見事に物語を盛
り上げて行く。                    
中でも、老年期のソーン師による息子の購入した西洋式のピ
アノの演奏に合せた即興での演奏や、現代のラナート奏者の
第一人者といわれるナロンリット・トーサガーが敵役として
登場する対抗戦の格闘技並の迫力の演奏シーンは、本当に素
晴らしいものだった。                 
なお、映画の中でバンコクに対する空襲が描かれる。この空
襲がどの国の軍隊によるものか字幕では判らなかったが、時
代背景は日本軍の占領前のように見えた。しかしネットで調
べても、日本軍の占領後に米軍がバンコク空襲を行った記録
はすぐに見つかるが、それ以外の記録は不明で、このシーン
の真偽も判らなかった。                
                           
『セブンソード』“七剣”               
武侠小説作家の梁羽生が1970年代に発表した「七劍下天山」
を、すでに『蜀山奇傳/天空の剣』などで武侠映画の実績も
あるツイ・ハーク監督が脚色、映画化した作品。     
ワーナー配給で、同社では先にチャン・イーモウ監督の武侠
作品『HERO』『LOVERS』を配給しているが、ハー
ク曰く「あの2本とアン・リー監督の『グリーン・ディステ
ィニー』は例外」だそうで、近年低調という本来の武侠映画
の復権が今回の映画化の目的の一つでもあったようだ。  
物語の舞台は15世紀、清王朝初期の時代。明王朝を倒したば
かりの新政府は、民衆の蜂起を懸念し、禁武令を発令して民

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09月14日(水)
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