ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■バットマン・ビギンズ、愛についてのキンゼイ・レポート、クレールの刺繍
郵政民営化の審議に絡んで、民営化先輩格のJRの不祥事を
早く風化させようとする動きが見られる中では、かえってそ
れを思い出させるこのシーンが存在することに意義があるよ
うにも感じた。                   
                           
『愛についてのキンゼイ・レポート』“Kinsey”     
アメリカ人の性に対する意識を研究した「キンゼイ・レポー
ト」で有名なアルフレッド・キンゼイ博士の生涯を追った伝
記映画。                       
厳格な父親の許に育ち、その父に反発して家を飛び出したキ
ンゼイは、やがて志望した生物学で博士となり、昆虫に対す
る研究では第一人者と呼ばれるまでになる。しかし、大学の
要請で性について学ぶ結婚学の講座を開いたとき、彼は新た
な研究対象を発見する。                
アメリカにおける性の実体の研究。ロックフェラー財団の資
金援助も受けたこの先見的な研究は、実に全米18000人に及
ぶ人々にインタヴューを敢行し、アメリカ人の性の営みを明
らかにする。そして、1948年に刊行された研究レポートは大
ベストセラーとなるが…                
性に対する無知が生み出す因習や、一部の法律にまで矛先を
向けたこの研究は、アメリカ社会を根底から揺るがすことに
なるが、それはキンゼイ自身の人生にも多大な影響をおよぼ
すことになる。                    
こんなキンゼイ博士の生涯が、『シカゴ』などの脚本家ビル
・コンドンによる巧みな脚本と演出によって、ユーモアも交
えて見事に描き出される。そして中で紹介されるレポートの
数々も、キンゼイ博士の遺志を継ぐようで、その描き方も素
晴らしかった。                    
また出演者では、キンゼイ博士役のリーアム・ニースンとそ
の妻クララを演じたローラ・リニーは、壮年期から老境に至
るまでの年齢の積み重ねを見事に演じており、メーキャップ
の力もあるのだろうが、特に壮年期のキンゼイを演じるニー
スンの若々しさには目を見張った。           
また、最後のインタヴューを受ける女性の役でリン・レッド
グレーヴ、キンゼイ博士の母親役でちょっと懐かしいヴェロ
ニカ・カートライトが出演していた。          
なお、年齢制限の指定はR−15になっているが、これはテー
マの都合上そのような画像がスクリーンに登場するためで、
映画の内容が猥褻と言うわけではない。         
                           
『クレールの刺繍』“Brodeuses”            
2004年のカンヌ映画祭国際批評家週間でグランプリを受賞し
たエレオノール・フォーシェ監督作品。女流監督のフォーシ
ェは本作が長編第1作で、脚本も執筆している。     
主演は、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』に出て
いたローラ・ネマルクと、セザール賞主演女優賞受賞者のア
リアンヌ・アスカリッド。つまりこの作品は、女性による女
性のための女性映画というところだ。          
ネマルク扮するクレールは17歳で一人暮しをして自活してい
たが、多分妻子ある男の子供を身籠もってしまう。そのこと
を両親にも打ち明けられない彼女は、匿名出産制度での出産
を決め、妊娠の事実を隠すために勤め先のスーパーも辞めて
隠れ住むようになる。                 
しかし、友人の家を訪れた時に、以前に刺繍の手解きを受け
た夫人が、一人息子を事故で亡くしたことを知り、自作の刺
繍を持って夫人の家を訪ねる。夫人は、今では刺繍だけを生
き甲斐に日々を送っていたが、彼女が手伝うことを認め作業
が始まる。                      
とは言え、心を開かない夫人と、妊娠を隠し通そうとする彼
女の関係はぎくしゃくしたものだったが、やがていろいろな

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05月31日(火)
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