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On the Production
by 井口健二
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■火火、隣人13号、火星人メルカーノ、エレニの旅、タッチ・オブ・スパイス、ビヨンドtheシー
葛藤が異様な映像感覚で表現されるなど、さすがに実績を積
んだ映像作家の作品という感じで、長編初監督とは思えなか
った。
アニメーションやモーフィングなども適所に採用され、多少
過激な描写も退くことなく見ることができた。また盗聴器や
ヴィデオなど、13号の行動も納得できる描写で進行し、結
末も破綻なくうまく描かれていた。
自分自身、小学校当時のいじめには、多分傍観者の立場だっ
たと思うが、このように今で言うキレテしまう感じは判らな
いでもない。そんな意味でも納得できる作品ではあった。
ただ、これは現実が後から追いついてきてしまったので仕方
ない面はあるが、幼い子供を誘拐してその映像を両親に見せ
つけるという展開は、今の時期ではかなりきつい。公開予定
は春ということだが、それまでに現実の事件が解決し、切り
離して見られるようになっていることを祈りたいものだ。
(事件は年末ぎりぎりに解決した。)
『火星人メルカーノ』“Mercano el Marciano”
2002年のシッチェス国際映画祭や、アヌシー国際アニメーシ
ョン映画祭でも受賞を記録したアルゼンチン製作の長編アニ
メーション。
元々はカナダのテレビ局が放送した音楽番組の中に登場した
2分間の短編作品が始まりのようだが、それを制作したファ
ン・アンティン監督が母国アルゼンチン戻って、同国の映画
大学などの協力を得て制作した長編作品。
ふとしたことから地球に飛来し、ブエノスアイレスの地下で
暮らしている火星人メルカーノが、寂しさを紛らわすために
作り上げた火星のヴァーチャルワールドを巡って、やがて世
界を破滅の淵に導く大事件を引き起こしてしまう。
75分の作品の中では、強烈な文明批判や風刺で、アルゼンチ
ンの現状を垣間見せる。それはアルゼンチンの限らず世界中
が直面している問題とも言える。その一方で、登場する火星
人社会の描写などには、何か懐かしさを感じさせる不思議な
雰囲気があった。
なお、アニメーションの制作では、手書きのアニメーション
を一旦コンピュータに取り込み、コンピュータ上で編集や合
成、色付けなどを施した上で、モニタ画面を撮影してフィル
ムに変換する方式が採られている。
このフィルム変換のやり方は、最近のレーザースキャナーな
どによる方法に比べると、安物の手法のようにも感じるが、
昔は皆この方式だった訳だし、今回もいろいろなフィルムの
テストを行うなど研究を重ねて、ほぼ問題のない水準に仕上
げているものだ。
また、2D、3Dのアニメーションがうまく組み合わされて
いるなど、これからも期待したい作品だった。
『エレニの旅』“Trilogia: To Livadhi pou Dhakrisi”
前作『永遠と一日』で1998年のカンヌ映画祭パルムドールを
受賞したテア・アンゲロプロス監督の6年ぶりの新作。
1919年から現代までのギリシャの姿を、一人の女性(エレニ
という名前はギリシャの愛称でもある)を通して描く作品。
本作はすでに2時間50分の大作だが、原題通り3部作となる
計画の第1部として、1949年までが描かれている。
1919年、赤軍のオデッサ侵攻によってその地を追われたギリ
シャ人たちが、逆難民となって母国に戻ってくる。その中に
は両親を戦闘で亡くし、幼なじみの少年の手をしっかりと握
って離そうとしない幼いエレニの姿もあった。
そして難民の村で、少年の一家と共に成長したエレニは、や
がて少年の子を身籠もる。しかし厳格な父親の怒りを恐れた
母親の手で、生まれた双子は裕福な家の養子とされる。それ
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12月31日(金)
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