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On the Production
by 井口健二
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■第17回東京国際映画祭(コンペティション)
性監督ケイト・ショートランドの長編デビュー作品。製作に
は、ジェーン・カンピオンが名を連ねていた。      
シドニーでシングルマザーの母親と暮らしていた少女が、あ
るきっかけで家を飛び出し、スキーリゾートにやってくる。
そして、その土地で奔放な生活をしようとするのだが…。い
ろいろな社会情勢が彼女を成長させて行く。       
さすがにカンピオンが目を付けた作品だけのことはあるとい
う感じで、現代の若い女性の姿が見事に描かれている。星取
表の評価はかなり割れていたようだが、僕は、寒々としたス
キーリゾートという背景の中で、女性の心情がうまく描かれ
ていたと思った。                   
なおこの作品は、最近発表されたオーストラリアの映画賞で
はかなりの受賞を果たしたようだ。           
それから、映画の巻頭のシーンで部屋に置かれたテレビにア
ニメーションが写っていて、「東京…」というような日本語
のせりふが流されていた。エンドクレジットで確認すること
ができなかったが、何の作品か気になるところだ。    
                           
『狼といた時』                    
ロシアの寒村を舞台に、ふとしたことから傷ついた雌オオカ
ミを保護してしまった猟師を主人公に、オオカミと人間との
共生の問題を提起した作品。              
物語はオオカミと人間の関係で描かれるが、そこには宗教や
政治理念などの、互いに相容れない思想の対立の問題が描か
れ、寓意に満ちた作品と理解することもできる。     
とある村の家畜がオオカミに襲われる。村人はオオカミ狩り
の名手といわれる猟師の男にその退治を依頼するのだが、よ
うやく仕留めた雌のオオカミにまだ息が合ったことから、猟
師はそれを連れ帰り、介護して檻で飼い始める。     
ところが檻に閉じ込められたオオカミは雄を呼び寄せてしま
う。この事態に村人たちは、猟師に檻にいるオオカミの処分
を迫るのだが…                    
自然の中でのオオカミの生態なども良く描かれ、特に子供の
オオカミの愛くるしさが見事に写されている。実際には、主
人公を演じた俳優も何度も咬まれるなど、大変な撮影だった
らしいが、雪に包まれていても、何となく暖か味のある映像
も素晴らしかった。                  
                           
『ウィスキー』                    
コンペティション部門で東京グランプリと主演女優賞を受賞
した作品。                      
主人公は、老朽化した靴下工場の初老の社長と、彼の片腕と
も言えるベテランの女性従業員。毎朝同じ時間に出勤して他
の従業員を迎え入れ、同じ靴下を製造して発送する。社長室
のブラインドが壊れても、その修理もなかなか行われない。
そんな全く変らない日々に、ある日変化がやってくる。外国
に出てやはり靴下製造をしているが、奇抜なファッションな
どを取り入れて成功している社長の弟が、母親の墓の建立に
合わせて帰国してくることになったのだ。        
ところが社長は、弟には家族がいると言っていたらしく、ベ
テラン従業員の女性に数日間の妻の代役を頼み込む。こうし
て弟がいる間だけの夫婦生活が始まったのだが…。弟はなか
なか帰ろうとせず、ついには一緒にリゾート地への旅行をす
るはめに…                      
確かに面白いし、人間の機微を描いて秀逸な作品だと思う。
特に結末には笑えた。星取表の評価でも、『ココシリ』に次
ぐ2番目に高いものだった。しかし、どちらが優れているか
と言われれば、僕は『ココシリ』の方に軍配を挙げる。  
今回の結果については、審査委員長の普段の作品のジャンル
に近いものが選ばれたという感じを強く持つ。確かに今年の

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11月05日(金)
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