ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■Movie Box−ing、爆裂都市、薄桜記、ブエノスアイレスの夜、トリコロールに燃えて、2046
過酷な運命の中で翻弄される。             
当時ロッテルダム映画祭のオープニングに選ばれたという作
品。                         
当時としてはリアルさが追求されたという市川雷蔵の作品だ
が、剣戟シーンには、最近のリアルだけが売り物の殺伐とし
たものではなく、ある意味華麗さも演出されている。当時の
海外映画人が憧れた日本の侍映画という感じの作品だ。  
映画は、安兵衛のモノローグに始まって高田馬場の決闘へと
続き、勝主演の作品かと思いきや、途中から市川の主演へと
摺り替わって行く。微妙と言うか、かなり思い切った構成だ
が、それがちゃんと納得できるところに納まって行くのだか
ら不思議な感覚だった。                
僕は、学生時代からほとんど洋画一辺倒で通してきたから、
この辺の日本映画はほとんど見ていない。だからかえって新
鮮に感じるのかも知れないが、このように見事な作品を見せ
られると、ちょっと続けて見たくなる感じがした。    
                           
『ブエノスアイレスの夜』“Vidas Privadas”      
『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスと、
メキシコの新星ガエル・ガルシア・ベルナル共演で、1976年
のアルゼンチン軍事クーデターに翻弄された女性の運命を描
いた作品。                      
主人公のカルメンは、軍事クーデターの際に逮捕されて夫を
失い、自身も拷問を受けた痛手から解放後はスペインに移住
し、必要なとき以外は祖国に帰ることはなかった。その上、
彼女はその時以来、男性の身体に触れることも嫌悪する性癖
となっていた。                    
そんな彼女が唯一行える性的な行為は、隣室の男女の営みの
声を聞きながら自慰に耽ること。そして元貴族の父親の財産
分与の為に5年ぶりに帰国した彼女は、その手続きに掛かる
2週間の間、家族に内緒でアパートを借り、その行為を行お
うとしていた。                    
しかし雇った若いカップルの男に興味を引かれた彼女は、翌
日からは彼だけを呼び寄せ、ポルノ小説を朗読させて、その
声を聞きながら自慰を行うようになる。そんな日々が続くう
ち、彼も彼女に興味を抱くようになるが…。       
最初は、ちょっと異常な性癖を持つ女性の姿が描かれ、政治
的な意味合いは、言葉では語られるものの深刻には描かれな
い。しかし、物語が進むうちに彼女や彼女の周囲の人たちが
徐々に過去の出来事を語り始め、政治的な背景が次第に濃く
なって行く。                     
7月14日付で紹介したアントニオ・バンデラス主演の『ジャ
スティス』も、アルゼンチンの軍事クーデターを描いていた
が、クーデターに絡んで行われた虐殺行為などは、今も真実
が語られないままの部分が多いようだ。         
そんな恐怖の時代を告発する両作だが、バンデラスは超能力
を交えて描き、本作では異常な性癖を交えて描くなど、わざ
と正面を外して描いているようにも感じる。未だに、当時の
ことを正面切って描くことは難しいかのようだ。     
実際、映画の中でも、当時の拷問を行っていた軍人が、今も
比較的恵まれた生活をしている姿なども描かれており、問題
の根は僕らが想像する以上に深いもののようだ。     
                           
『トリコロールに燃えて』“Head in the Clouds”    
シャーリズ・セロンの主演で、20世紀前半を自由に生き抜い
た女性の姿を描いた作品。               
時代は1930年代、セロン扮する主人公のギルダは、実は14歳
の時に占い師から34歳より先の人生が見えないと言われてい
た。そんな彼女は、人生を自由気ままに送ろうとし、アメリ
カに渡っては映画に出演し、パリでは写真芸術家として成功

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09月30日(木)
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