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On the Production
by 井口健二
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■透光の樹、ツイステッド、犬猫、ニュースの天才、クライモリ、トルク、マイ・ボディガード、80デイズ、みんな誰かの愛しい人
『犬猫』
2001年のPFFで企画賞を受賞した8mm作品の35mmリメイク
バージョン。
幼稚園の頃からの幼なじみだが、性格は正反対。しかし好き
になる相手はいつも同じで、従って仲の良いはずのない2人
の女性が、共通の友人の海外留学中、その住居の留守番で一
緒に暮らすことになった様子を描いた作品。
この2人を榎本加奈子と、『犬と歩けば』にも出演していた
藤田陽子が演じている。監督、脚本、編集は、企画賞を受賞
した新人の井口奈己。
新人監督の作品にしては、等身大の世界を描いているせいか
違和感も無く、見ていて緊張するところはなかった。いや、
正直言って、榎本なんてかなり癖のありそうな女優を使って
大丈夫かとも思ったが、良くやっている感じだ。もっとも、
どちらかというと藤田を中心に捉えて、榎本を脇に回してい
るのは作戦だったのだろうか。
というか、その藤田が実に良くやっている。『犬と歩けば』
では確か引きこもりの妹の役だったと思うが、今回は外向的
で正反対の役柄だが良い感じだった。今回の新人監督が演技
指導をどこまでやれたかは判らないが、前作の監督の教えを
しっかりと活かしているようだ。
実は、僕の見た試写会に藤田が来ていて、僕の1つ置いた横
の席に座っていた様なのだが、本人も落ち着いた感じで見て
いて、それも好印象だった。
『ニュースの天才』“Shattered Glass”
1998年。当時の大統領専用機に唯一設置されていた政治雑誌
“The New Republic”で、最年少の記者として数々のスクー
プをものにし、脚光を浴びていたスティーヴン・グラスが引
き起こした捏造事件を描く、実話に基づく作品。
僕自身、雑誌にニュース記事を寄稿している立場の人間とし
て、この作品は骨身に染みるところと言える。
僕自身、思い違いや読み間違いによる誤報は儘してしまうと
ころだが、捏造という段になると、さて自分が思い込みで書
いている部分がそうでないと言い切れるものではない。僕が
書いているのは、記事を判りやすくするための補足だし、そ
れまでの経緯などから間違いないと確信を持ってはいるが、
それが想像の産物であることに代りはない。
多分グラス記者がやってしまったことも、初めはそんなもの
だったのだろうと思う。しかしライヴァル誌があって、社会
に影響のある記事ではそれは許されないことだったのだ。
そんな訳で、僕はこの主人公に同情的に映画を見ていたのだ
が、この映画の製作者たちはかなり手厳しい。主人公に言い
訳の機会を与えることもなく、逆に主人公が自分の過ちを糊
塗しようとすることによって、どんどん窮地に追い込まれて
行く姿が描かれる。
しかし、短期間に27もの捏造記事が、いともた易く雑誌に掲
載されていたとはとても思えない。映画の製作に当っては、
当時の編集長らにも取材したということだが、彼らが全く保
身を考えずに取材に応じたとは思えないところだ。
特に、先代編集長で昨年イラクで殉職したマイクル・ケリー
は、自分の現在の地位への影響も顧みず協力したということ
だが、美談はそんなところにあるものではないし、事件の核
心もこれでよいものかどうか。
映画を見ながら、裏の裏を考えたくなってしまった。
なお映画では、時代の寵児だったグラス記者が、一瞬の内に
そうではなくなる姿が衝撃的に描かれるなど、見事な演出が
見られた。
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08月14日(土)
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