ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
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■【File126】男たちの硫黄島・・・@イーストウッドの挑戦
硫黄島の戦い≠ナは、当初米海兵隊指揮官ホーランド・スミス中将が占領までには5日くらい≠ニ発言していました。しかし実際には日本軍守備隊指揮官栗林中将の優れた作戦指導により、当初予測の7倍もの日数が掛り、更には勝った米軍が日本軍よりも大きい死傷者を出しています。しかしその結果の影には、米国側には、次第に昂まる軍の作戦指導への批判や米海兵隊指揮官の更迭論と言った世論があり、そんな世論の目を逸らすものとして意図的に作り上げられた二つの虚構・・・摺鉢山の山頂に掲げられる星条旗の写真≠ニ星条旗を掲げた6名の英雄≠ェありました。また日本軍守備隊は、総指揮官である栗林中将は駐在武官として米国力の実情を熟知しており、また家族への手紙を絶やさない良き父親であり、更に戦車第26連隊長西中佐は、ロサンゼルスオリンピックの馬術障害競技の金メダリストで、欧米各国の社交界に多くの知人を持ち、また戦場に愛馬ウラヌス号の鬣一束を持参する程に馬を愛していた・・・排他的な日本陸軍の内部にあって将に最も敵を知り、最も己を知る人物と言える指揮官に率いられていたのでした。
これ程に興味深い日米両軍将兵にまつわるエピソードがありながら、例えば、これらエピソードを『史上最大の作戦(1962)』や『パリは燃えているか(1966)』『空軍大戦略(1969)』『遠すぎた橋(1977)』の様に、時間軸のあちらこちらに散りばめて、ひとつの戦いの流れを描いて行く戦争映画(いわゆる時系列系大作戦争映画)や、『バルジ大作戦(1965)』や『レマゲン鉄橋(1969)』の様に、相対する両軍の指揮官や個々の将兵の動向を二本の軸として、戦いの流れを描いて行く戦争映画(いわゆる相対軸系大作戦争映画)として、一本にまとめるには映画の尺が長くなり過ぎるだろうし、下手をすればそれぞれのエピソードが持つ素晴らしい輝きを汚しかねません。やはりイーストウッドが硫黄島の戦い≠一本の作品の中で勝者と敗者を明確に線引きするのではなく、日米双方の視点で自らの意思とは異なる運命の渦に巻き込まれていく人々の姿を、それぞれ別の硫黄島二部作として描いた事は、映画的に最良の選択であったと思われる・・・のです。

2006年10月28日に『父親たちの星条旗』公開に続き、12月9日に『硫黄島からの手紙』が公開され、日本国内でも好成績を収めている様ですが、ATF的に観ると・・・次回に期待を持たせつつ観戦記は【続くのであった!】

01月01日(月)
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