ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
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■【File078】戦場の好敵手・・・多勢に無勢【中編Vol.2c】
米軍は、平時においては予算等の関係で兵力・編成が縮小されていて、戦時になると予備役や州兵(NATIONAL GUARD)沿岸警備隊(US.COAST GUARD)を指揮下に加え、兵力を増強する仕組みになっていました。また指揮官が戦死した場合、次席者が指揮権を継承しますが、旧日本海軍では軍令承行令≠ノよって指揮権委譲が細かく設定されていたのに対し、現場での状況判断で臨機応変に指揮官を決定し、作戦を続行する様になっています。これに対応するシステムが戦時昇進≠ニか野戦任官≠ニ呼ばれる特別昇進制度(TEMPORARY RANKS=一時的な階級)です。これには@兵力増強(部隊増設)に伴う対応、とA戦闘による消耗への対応、があります。@は新編成部隊の各級指揮官を充足する場合、基幹となる古参部隊から士官や下士官兵を抽出し、昇進(尉官→佐官、下士官→士官、兵→下士官)させ新設部隊の指揮を執らせる事。これは第一次大戦後兵力を制限されたワイマール共和国軍で、少ない兵員を高度に訓練し、ナチスによる再軍備時に急激に膨張したドイツ国防軍各部隊の基幹要員たる士官・下士官とした事例にも当て嵌まります。また戦前の合衆国海軍では、平時昇進による最上位階級は海軍少将≠ナ、戦時に艦隊や職位が新設された時点で、中将や大将に一時的に昇進させ指揮させるシステムになっていたようです。陸軍でもアイゼンハワーなど開戦前まで万年大佐だったのに、欧州反攻連合軍総司令官(元帥)職に抜擢された後、僅かな期間で星(将官の階級章)≠増やしています。合衆国軍の組織は、士官学校や兵学校卒業時の先任順位や席次(ハンモックナンバー)、陸大、海大の卒業が昇進や任官に大きく影響した旧日本軍とは異なり「危機対応に促した柔軟な組織機構」だった訳です。Aは指揮官が戦死した場合、例えば激戦で中隊長(大尉相当)以下の将校が殆んど戦死してしまった部隊で最上級者が軍曹だった場合、臨時に少尉や中尉に昇進させて中隊の指揮を執らせる事。戦争映画でもよく見られるシーンですなぁ・・・有名なところでは「史上最大の作戦(THE LONGEST DAY1962)」オマハ地区の戦闘で工兵が防壁の下に爆薬を仕掛けるシーン、工兵将校が全員戦死してしまった為に第29歩兵師団副師団長コータ准将が、軍曹を臨時に少尉に任命します。それから名作「地獄の戦線(TO HELL AND BACK1955)」でのオーディ・マーフィー・・・先任者が次々に戦死した為、僅か数年で二等兵から中尉(退役時)まで昇進(まぁ本人の武勲の結果でもあるんですが)次に佳作「重戦車総攻撃(THE YOUNG WARRIORS1966)」でも主人公ハッカーが分隊長クーリー軍曹の負傷直後軍曹に昇進、相棒のガスリーも伍長に昇進してました。まぁ「地獄の戦線」のフィルム流用なので生姜無いか・・・さらに隠れた名作「プライベート・ソルジャー(WHEN TRUMPET'S FADE1998)」1944年の独ベルギー国境での激戦で、部隊が大損害を被った為、主人公マニング上等兵は僅か三日の内に上等兵→軍曹→中尉になってしまうのが凄い。極め付けは「脱走大作戦(THE SECRET WAR OF HARRY FRIGG1968)」では、極秘作戦の為とは言え、主人公ハリー・フリッグ二等兵をいきなり(陸軍航空隊の)少将閣下にしてしまう太っ腹・・・結局は曹長で大団円。さてカスターですが、1961年に士官学校卒業と同時に騎兵少尉に任官後「壮烈!第七騎兵隊」では司令部の副官が、カスターが無断で乗って行った軍馬を早急に返却するように・・・という命令書と、空席になった騎兵旅団長の任命書の宛名を書き誤るという凡ミスからいきなり少尉から旅団長=准将になってしまいますが、実際は中尉を経た卒業三年目の大尉から准将(義勇軍名誉准将)への野戦任官(四階級特進)だったようです。それでも若干23歳で閣下と呼ばれる身分・・・かのヤン・ウェンリー(銀英伝)が28歳で准将(帝国軍には貴族出身の10代の将官はワンサカいましたが)。皇帝ナポレオンは26歳で共和国軍少将(まぁ革命のどさくさって言や〜そうですが)。独空軍のエース、アドルフ・ガーランドが空軍少将になったのは僅か30歳。第82空挺師団ギャビン准将は幾つだっけ・・・?しかしながらカスターの階級には義勇軍名誉・・・≠ニいうオマケが付いてるんですよ。そう、あくまでも今だけサービス!≠チて言う但し書きです。戦争が終わり軍が平時編成に戻ると、昇進前の正規の階級であった正規軍大尉≠ノ戻されます。今まで部下として、自分の指揮下にあった正規軍の少佐や大佐から逆に命令される訳です・・・それがカスターには耐えられなかったんでしょう・・・一端軍を退役します。これなら退役前の階級である義勇軍名誉少将≠公式の場で名乗る事が出来ました・・・ただし頭に元≠ェ付きますがね。しかし彼の軍人としての血・・・とりわけ根っからの騎兵の血が、軍務への復帰を強く欲し、結局は1866年に知故を頼りに手に入れた辺境警備の騎兵連隊長付中佐≠ニして任地に赴く訳です。因みに彼の直属上司・・・第七騎兵連隊長スタージェス大佐も南北戦争時は将官でした。また部下の騎兵隊員の中には元将校の下士官や兵が結構いたようです。戦後の急激な軍組織の縮小によって炙れた軍人たちが背に腹を変えられず≠ノ飛びついたのが、フロンティアの西進によって需要が昂まった辺境警備の騎兵隊だった訳ですな。カスターは言ってます「歩兵の将校よりも、騎兵の一兵卒の方がましだ」と・・・。
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03月07日(金)
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