ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 1
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 1@I'M A SHOW
day1 初演の曲も多かったので緊張感ありました いやー pic.twitter.com/mMp3NR2WiX— kai ☁️ (@flower_lens) October 24, 2024
天国と地獄。愛されてるね、愛してるよ。
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菊地成孔(sax/vo/cond)・大儀見元(perc)・田中倫明(perc)・林正樹(pf)・鳥越啓介(cb)・早川純(bn)・堀米綾(hp)・牛山玲名(1st vln)・田島華乃(2nd vln)・舘泉礼一(vla)・関口将史(vc)
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『天使乃恥部』リリースに合わせた2days、1日目。今回パッケージがひとつのミクストメディア作品(音源と映像入りUSB+「甘い混乱」「とても清らかで淫らな声」の香水2種のボックス)で、拘りに拘ったためか発送が間に合わず、ライヴ当日に現物を手にしていたひとが少なかったようです。「香水を纏って会場へ行きたかったのに!」というひとのために、ロビーにはムエットが用意されておりました。
第一声は「林さん、Bマイナー」。菊地さんはタキシードを新調してちょっとウキウキしていた様子。シャツの袖が長めでかわいいななどと思っていたのですが、「萌え袖!」「タックが3つあるの、珍しいでしょ!」とキャッキャして見せびらかしておりました。こういう話が出たのは終盤。リリパ初日、かつ初演の曲が多く、演者も聴衆もいつもとは違う緊張感がありました。最初のMCで「こういう場所だからってのもあるけど、静かですね……」というくらい。そりゃあなた、集中して聴き入ってたんですよ! 前回がスタンディングだったのでギャップがすごい。この「両方ある」のがいいところ。
「自分が作った曲じゃないものを演奏する」。今作には2021年に設立したギルド『新音楽制作工房』のメンバーが作曲したものも多く収められており、これがなんというかPTAのレパートリーでしか有り得ない響きを持ち乍ら、しかしこれ迄にはなかったカラーを感じる按配なのです。それこそトップノートで知らないPTAの姿に困惑し、ミドルノートで知っているPTAが現れて合点し、ラストノートでそのふたつが融合する。今迄のPTAの残り香と、聴いたことがなかったPTAの香り。大野雄二の「愛のバラード」(『犬神家の一族』)みたいなニュアンスもあったな……なんていえばいいか……伝われ……。
クラシックのように確固たる楽譜はある。「俺と大儀見がいちばん出来てない」なんて謙遜してましたが(このとき大儀見さんが「ええっ、俺?」みたいな顔してたのが面白かった)、楽曲のリズムを決定づけているのはコンダクターであり、パーカッションのふたりでもある。クラーベで割っていくポリメトリックには所謂楽譜にない箇所がある。ザックリ分けると最初のカウントから状況が変わるケース──例えば菊地さんのストラップが絡まったりしてセッティングが間に合わない等──と、各々のソロを長く聴かせたいケース──例えば田中さんと大儀見さんのセッションを楽しみ続けたい──のふたつ。そういうときサインひとつで簡単に(そう、簡単に見えてしまう)拍の移動が出来る。
100年後(南米のエリザベス・テイラーに倣うなら1000年後?)も聴き続けられてほしいと思うようなレパートリーを、この楽団は持っている。しかし、1000年後にこれらの楽譜が残っていても、このスリリングな「合奏」を誰が出来るだろう? 唯一無二のソロイストたちが奏でるあの、状況によってコンダクターがいくらでもその幸せな時間を延長してくれる音のやりとりを1000年後は聴くことが出来ない。いや、10年後だって怪しい。
PTAがなくなったら、このメンバーがいなくなったらそれが聴けなくなってしまう。ヤダーッ(ちいかわ)とわんわん泣いてしまいそうになった。楽団の維持のたいへんさをMCでも話してましたが、20年続いているのは本当に奇跡ですね。
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10月24日(木)
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