ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ランサム 非公式作戦』
『ランサム 非公式作戦』@新宿バルト9 シアター4

『ランサム 非公式作戦』一難去ってまた一難が50回くらいあった気がする…『アルゴ』や『モガディシュ』好きにはたまらんもんがありました。それにしても…安企部〜! 『ソウルの春』観たあとだとすごいメラメラする。ハナ会〜!(憎) pic.twitter.com/uriPe5dh7w— kai ☁️ (@flower_lens) September 16, 2024
あと学閥〜!

今作もファクション、情報開示は2047年なんですって。ソウルオリンピック開催を前に浮き立つ世間の陰で、こうして職務を果たしたひとたちがいた。派手なアクションエンタメでありつつ、打ち捨てられ(かけ)た人々の風景を逃さず捉えているところに感銘を受けました。

原題『비공식작전(非公式作戦)』、英題『Ransomed(身代金を支払い人質・捕虜等を取り戻すこと)』。2023年、キム・ソンフン監督作品。モチーフとなるのは1986年にレバノンで起きた韓国人外交官拉致事件。行方が掴めないまま1年以上経った1987年10月に突然彼の無事が知らされ、数日のうちに救出されたという不可解な部分も多い出来事です。今判明している情報のみから創作されたものですから(勿論取材は相当しているだろうが)、「情報開示は2047年」と断りを入れたのだと思われる。しかしそうなると観客は興味を持って経過を注視しますし、「今わかっている時点で、どの部分が実話なんだろう」と調べたくなりますよね。観客の知的好奇心を刺激する面白さ。

イギリス赴任をエリートにかっさらわれ腐っていた外交官が、レバノンからの報を受け現地に行く役を買って出る。手柄を立てれば栄転出来るかも! という野心があるんですね。裏社会に通じる仲介者や富豪との交渉を終え、ドルを手にしてようやく辿り着いたベイルート。早速武装組織に襲われ、逃げる途中で手配されていたものとは別のタクシーに乗ってしまうのだが、その運転手が密入国者の韓国人で……?

よりにもよって韓国政府(ていうか全斗煥ね)が身代金を踏み倒したというところがゴリゴリのノンフィクションであった。すげーな! テロリストに屈して身代金を渡したなんて世間に知られたら、次の選挙の妨げになる。ただでさえ支持率落ちてんだから! という理屈です。すげーな!(再)そんな訳でこの救出劇は、政府の許諾を得ずに外務部が独断で進めた「非公式作戦」だったのでした。なのに無事救出したら政府が手柄横取りだもんな! すげーな!(再々)

1987年といえばそう、『1987、ある闘いの真実』でも描かれた民主化宣言の年。いよいよ独裁が危うくなった政府は保身のために外務部の邪魔(としかいいようがないね!)をしまくる。『ソウルの春』を観たばかりだったということもあり、安全企画部長を「あっ、こいつハナ会の元軍人だ!」とか、あ〜閣下って全斗煥ね、壁に飾ってある肖像写真も全斗煥ね、と理解が早い。成程この年は激動の年だったんだ、そんな中こんな出来事もあったのか……と刮目。

しかしこの映画には、「信じること」を最後迄信じられる優しさがありました。騙され続けてすっかりひねくれてしまった「誠実な青年」が本来の自分を取り戻す。栄転する後輩の机に飾られた花に殺虫剤かけちゃったりしてたちっせー(笑)外交官が、誰も見捨てないことを選択する。『モガディシュ』には「ソマリアという地域をここ迄物騒に描いていいのか」というような声もあったそうだけど、今作は約束を守るレバノン人を零さず描いたこともいいバランスだった。確かにこの地域は危険で、騙し騙されが日常なのだろう。それが現実なのかもしれないが、こうした娯楽作品で負の側面ばかりを描いていると、それは知らず知らず不審と差別を観るひとに植え付ける。日本でも川崎市や足立区のことを揶揄する表現を目にするの、ホントに嫌なのよね。最近では川口市が色々いわれていて本当に嫌。

閑話休題。金が、出世がで動いていたひとたちが、人生それだけではないと信じてみる。果たして主人公はアメリカに赴任出来たのでしょうか。でも帰国した彼の晴れ晴れとした表情は、出世欲など消えているようにも見えたのでした。


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09月16日(月)
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