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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『シュリ デジタルリマスター』
『シュリ デジタルリマスター』@シネマート新宿 スクリーン1

『シュリ』観た〜 これが韓国現代諜報アクションの原点! と感じる要素がゴロゴロと。メロドラマ的なパートもエモの極み、あと死に方(の演技)には時代を感じた…名作ですね pic.twitter.com/IndzRIezwe— kai ☁️ (@flower_lens) September 15, 2024
初見はスクリーンで、と決めていたので遂に! と感無量(同じ理由で実は『JSA』も未だ観てない……)。行方不明になっていた権利関係がようやくクリアになったそうで、なんと24年ぶりの日本公開とのことです。同じタイミングでシネマート新宿に4Kレーザープロジェクターが導入、今作がオープニング上映となりました。原題『쉬리(シュリ)』、英題『Shiri』。1999年、カン・ジェギュ監督作品。英題には『Swiri』と書いてあるところもあり、表記に揺れがあるようです。「シュリ」も原語だと「スゥィリ」という感じの発音みたいですね。

何せ“韓流”の原点といわれる作品。韓国映画を観ていると、あらゆるところに今作の話題が出てきます。それ迄はタブーとされていた南北朝鮮の問題をエンタメに取り上げた、北の人物の“感情”を描いた、北朝鮮との関係を“対立”ではなく“理解”へと移行させた、などなど。果たして実際観てみれば、今の韓国エンタメ映画の基礎がここに全部ある、という印象でした。社会問題が地盤にあるストーリー、“相棒(兄弟)”と“裏切り”、濃厚なバイオレンス描写、そしてひと匙のユーモア、コメディリリーフが意外に重要な役割だったりするところ。今回だったら「コネ入社」の彼ね。

個人的に「韓国」という国を意識したのはスポーツからだった。1980年代のアジア大会やソウルオリンピックで、韓国はあらゆる競技で「日本のライバル」といわれていた。スポーツで優秀な成績をおさめれば兵役が免除されるという話、日本に「だけ」は負けられないと目の色が変わるという話から、朝鮮半島が歩んだ歴史、そして今なお「戦争(休戦)中」という現実を知った。そして2002年、日韓共催で行われたサッカーワールドカップ。20年以上前のことだが未だ記憶に新しい。

このサッカーW杯が今作の背景になっている。結局実現はしなかったが、当時数試合は北朝鮮の会場で開催しようというプランがあったのだ。そして『2002南北統一サッカーゲーム』は、W杯後の秋に実際に開催されている。南北統一という夢は、スポーツを通して幾度か実現している。スポーツを通してしか実現出来ていないともいえる。1991年には、日本の発案で南北合同の卓球代表チーム「コリア」が、千葉で開催された世界選手権に出場したこともある。この出来事はペ・ドゥナ出演の『ハナ 奇跡の46日間』で映画化されている。

そもそもひとつの国だった北と南の関係は、近づいたり離れたりの繰り返しだ。板門店で文在寅と金正恩が握手をした6年前、「自分が生きている間に南北統一が実現する(かもしれない)なんて」と思ったことがあったなんて、今となっては信じられない。ベルリンの壁の崩壊を目にした記憶があるひとで、そんな希望を持ったひとは少なくなかったのではないか。『シュリ』がつくられていた現場にもそんな希望があった筈だ。いつかは、きっと、と。「シュリ」とは朝鮮固有の魚の名前。領土は分断されていても流れ着く川は同じという願いも込められているようだ。統一の扉は今堅く閉ざされている。そのことがひたすら悲しい。

今作にはシュリの他にもう一種、キッシンググラミーという魚が重要な役割を果たす。つがいでしか生きていけない習性を持つこの魚は、主人公とその恋人になぞらえられる。これがエモーショナルの極み。結婚を控えたふたりが未来を語るシーンの数々は『ハートカクテル』のように甘くて美しく、彼らの行く末を予感している観客は身悶えしてしまう。恋人の解剖結果はもはやダメ押しで、これでもかこれでもかと悲劇を積み重ねる。先日観た『ボストン1947』もカン・ジェギュ監督作品だったのだが、全然毛色の違う作品であるものの、エモーショナルな展開は共通しているかな。


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09月15日(日)
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