ID:43818
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by kai
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■イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』
イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』@東京芸術劇場 シアターイースト

おあとがよろしいようで、ポンッ 呼ばれて出てくる真打ちは、果たしてひとかもののけか。イキウメの真骨頂、『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』 pic.twitter.com/79S5YeaDLS— kai ☁️ (@flower_lens) August 24, 2024
開演前は場内暑いな! と思っていたのに、カーテンコールの頃には冷たくなった手を叩くことで温める始末。さて、これは体感のみによることか? 「常識」「破られた約束」「茶碗の中」「お貞の話」「宿世の恋」といった小泉八雲の短編が、とある事件の謎解きとなり……さて、はじまりはじまり。

2009年初演の感想はこちら。終演後のロビーや客席の「なんかすごいものを観た!」って熱気、今でもよく憶えてる。あーそうだ、この年の7月って『異人たちとの夏』にも通っていて、幽霊ものの作品ばかり観ていたんだ(笑)。いい夏。
・『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』
・補足

このとき前川さんが「意識していなかった」という夢幻能の劇構造を指摘され、そうかそれなら、と2011年に『現代能楽集』シリーズの一本として上演した二作目がこちら。
・現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』

三作目は柳田国男『遠野物語』がモチーフ。これはちょっと毛色が違うかな。
・『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』

今回は一作目と二作目のハイブリッド版という感じでしょうか。ストーリーは一作目のもので、能楽を意識した演出、美術等は二作目。演者は摺り足で入退場、能楽の所作が取り入れられている。ステージは通常より高めに組まれており、能舞台構造ではあるのだが本舞台より後座の方が広く取られているように見える。これは自分の席が最前列だったためそう見えただけかも知れない。本舞台が二分割されているようにも解釈出来る。上手に椿が咲いた枝、下手に祠が据えられている本舞台には、開場時からひとすじの流砂が降り続けている(美術:土岐研一)。サー…という音を耳に馴染ませ乍ら開演を待つ。真後ろの席にいる小学生らしき子どもふたりが「あれ偽物だよね? じゃないとびちゃびちゃになっちゃうよ」などと話している。どうやら砂を水(ミスト)と見間違えていたようだ。成程いわれてみればこのルックと音は水に喩えられる。枯山水ですね。開演直前、止まった流砂の音を引き継ぐように摺り足の音が聴こえてくる。登場人物が現れる。

さて始まってみればその本舞台、作家が長逗留している宿の中庭として機能する。巧い! 中庭の景色を眺め乍ら、作家と客人(実は彼らは事件を追って捜査にやってきた検視官と警察官なのだが)はその土地にまつわる不思議な話を持ち寄り語り合う。彼らは本舞台(中庭)に足を踏み入れることがない。そこへ降りるのはそれぞれ一度だけ。斯くして作家は一線を超え、客人は事件の全容を知る。

今回は能楽もさることながら、連想したのは落語のことだった。安井順平の滑らかな語り口から連想したこともあるが、「宿世の恋」は『牡丹灯籠』として落語でも有名という台詞から。円朝の『牡丹灯籠』は通しで上演すると30時間かかるという。この30時間という長さ、浪人のもとへと通ってくる旗本の娘とそのお付きが現れる時間と符合するのではないか……一日につき4時間ちょっと、それを七日間。偶然だろうが、その時間を耐え抜くか享受するかはこちらの心構えにかかってくる。享受は地獄へと繋がるが、「それが不幸とは限らない」。観劇という業を思い知った次第。

そしてもうひとつ。今回あっと思ったのは、劇中登場しない人物のこと。ここには検視官と警察官が来る前に、もうひとり誰かが訪れている。あの手紙を読み、彼らを葬った「旅の方」がいる筈なのだ。死体遺棄になりますね。しかし、その者は果たして此岸に存在するのか……? ますます報告書を書くのが難しくなりますね(にっこり)。後味もお見事。余韻の深い作品でした。


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08月24日(土)
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