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by kai
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■『極限境界線 救出までの18日間』
『極限境界線 救出までの18日間』@TOHOシネマズ新宿 スクリーン12

『極限境界線 救出までの18日間』派手な演出もアクションもあるんだけど、終始抑制の利いた演出でよかったな……外交官も工作員も、人質の救出を最優先に考える。こういう仕事は世間から評価されづらいし感謝もされない。それでも彼らはやり遂げる pic.twitter.com/nTkNuFwv1d― kai ☁ (@flower_lens) October 27, 2023
推敲もせずアップしちゃったんで清書。「派手なアクションもあり見せ場も多いが、終始抑制の効いた演出。外交官も工作員も、人質の救出を最優先に考える。こういう仕事は世間から評価されづらいし感謝もされない。それでも彼らはやり遂げる」。

原題『교섭(交渉)』、英題『The Point Men』。2023年、イム・スルレ監督作品。2007年に起こった拉致事件を元に書かれたストーリー。人質となったのは、伝道のためアフガニスタンへ入国した23人の韓国人クリスチャン。タリバンの要求は、アフガニスタンに駐留する韓国軍撤退と、収監されているタリバン戦士の釈放。イスラム主義組織であるタリバンに、人質がクリスチャンであることを知られてはたいへんなことになる。政府は、人質はボランティアのためアフガニスタンに入国したと発表し、アフガン外務省との交渉に外交通商部の次官と室長を派遣する。一方、国家情報院はパキスタンで活動していた工作員をアフガンに送り込み、独自の交渉を図る。

メンツが〜! 恥が〜! アメリカが〜! 上のひとたちは国家ファースト。内緒にしてたのに人質はクリスチャンで〜とニュース番組のコメンテーターがいっちゃう。抗議を入れても国内の放送だからアフガンに知られることなんてないですよ〜と呑気なテレビ局。そんな訳なく、すぐアルジャジーラで引用映像が流れちゃう。そもそも渡航しないでって注意喚起してる国になんで行っちゃうのようアーーーーと素人はブチギレれば済むが、交渉人はそうはいかない。

断片的な報道や噂でしか事情を知らない世間は好き勝手に文句をいう。出せない情報というのはあるのです。いえないことは山盛りです。交渉にあたるというのはそういうこと。それぞれの立場や複雑さが描かれる。「(あなたたちはこれが片付けば終わりだけど)我々はタリバンとこの先も戦わねばならない」というアフガン外務省役員の言葉は重い。

好もしかったのは、極端なバカとか極端に意地が悪いひとがいないところ。エンタメとしては、そういう人物を各所に配置しておくとメリハリがつきやすい。しかしこの作品の筆は滑らない。次官は全然仕事してなかったように見えたけど(笑)最後書類に署名するとことか、室長の次官に対する態度とかを見ると、やはりこのひとも見えないところで闘っていたのだろう…多分……と思わせる余白がある。書記官たちも健気でよかった。どんな都合があっても、最重要かつ最優先事項は人質の救出なのだ。「テロリストとの交渉を国家外交の恥だと思わないのか」と問われても、「外交部の使命は人命を守ることです」と答える室長に信頼を覚える。国家を代表するもの、映画のなかだけでなく現実もそうであってほしいと思いますね〜。

室長はファン・ジョンミン、工作員はヒョンビン。会った当初は事あるごとにぶつかる。興味深いのは、どちらも迷惑そうではあっても決して相手を見下さないところ。こういうときのジョンミンさんの演技はいつも独特。複雑で繊細、腹が読めない表情をする。これ迄も幅広い役柄を演じてきたひとだが、思えばこうしたエリート官僚の役は珍しい。あまりにもストレスばかりの状況に、いつシーバラマーとかケーセッキヤーといいだすかとハラハラしたが(笑)そんなことはなく、決して諦めずに粛々と責務を果たす姿が頼もしかった。ヒョンビンさんは『王の涙』でしか観たことがなく、大ヒットした『愛の不時着』も未見なのだが、陰のある役がとても似合う。目の前で人質を殺されたトラウマに苦しみ乍ら、同じことを二度と繰り返すまいと奔走する。ふたりとも互いの仕事に敬意を持っている、そんな誠実さが伝わる演技で素晴らしかった。


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10月27日(金)
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