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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■イキウメ『天の敵』
イキウメ『天の敵』@本多劇場
初演時と浜田さんのお姿変わらんなあ〜と思いつつ、「井の頭線が落雷のため停まってまして、まだ着いていないお客様のため開演を5分遅らせてください」と挨拶に出てきた前川さんを見て、はっ思えば前川さんこそ最初見た時から見た目変わらない気がするなどと思った #天の敵 。食習慣とは。 pic.twitter.com/eKN9TpBtqY― kai ☁ (@flower_lens) September 24, 2022
いや真面目な話、当て書きのようでいて当て書きのように見えるように演じるという浜田信也の鍛錬について考えました。そんで不条理にフラットにツッコミを入れ笑いを生む安井順平のスキルにも舌を巻く。
初演は2017年、「あまり時間がない」ライターと、「時間がありあまっている」料理家の対話。彼らをとりまく人物たちのクロニクル、人間の欲望の物語。天を敵にまわすということは人の道を外れるということで、当然昨年上演された『外の道』を連想する。天を敵にまわし、人の道を外れる所業なんて、既に人間は数えきれない程やらかしている。個人が生きることと、社会的に死ぬことの違いを考える。社会的に生きることの方が、よっぽど天を敵にまわしているのではないだろうか? 初演のときより、より強くそう感じたのは、底が抜けた現在の社会を見ているからか。
時期が時期だけに、宗教についても考えた。信仰や信念は、個人で向き合う場合、生きる上でのよすがになりうる。しかしそれに共感する者同士が集まり、コミュニティが出来ると、勧誘というシステムが生まれる。自分の信じるものを伝道したい、同志を増やしたい。活動資金が必要だ。家族を、友人を巻き込み、搾取がエスカレートする。そうならないためには? という示唆も感じる。
イキウメは前川知大の考えを作品化しているともいえるが(そもそも劇作家とはそういうものだ)、その思想にのめり込みそうになると、芸達者な演者たちによって「怪しい宗教じゃないですよ」と引き戻される。その塩梅が絶妙だ。ある思想を持つ人間(今作でいえば浜田さんが演じる役)、その思想をフラットな目線で見てツッコミを入れる人物(安井さん)、思想に染まる人物(盛隆二と澤田育子)、思想を違う形で実践し、違う答えを出す人物(森下創)。そして、とある事情からその思想を信じ込もうとしている人物(豊田エリー)。役者たちは、登場人物それぞれの人生を背負い、その言動に説得力を持たせる。理詰めに徹しつつ、理詰めだけでは解決出来ない大きなものが「生きる=命」にはあるのだと伝える。さて、そんな大きなものをコントロールしようとすることは、果たして天の敵なのか?
出ずっぱりの浜田さん。日常会話とは程遠い哲学的な物言い、伝統芸能の役者を思わせる姿勢のよさ、喜怒哀楽全てを湛えるアルカイックスマイル。あまりの台詞量に舌が回らなくなる瞬間がちょっとだけあり、「あ、人間だった」と逆に安心する(笑)。対する安井さん、余命を思う苦悩を滲ませつつの「アウトでしょ」「こわいこわい」「やばいやばい」と立て板に水のツッコミぶり。素晴らしい。このふたりのリズム感は抜群で、対話のキャッチボールが心地よく、それこそ100年の物語をまだまだ聞かせて! と心は前のめり。ツッコミといえば今回澤田さんが強いキャラクターで興味深かった。「90歳も若い女とよろしくやって」の台詞にハッとする。これが30歳とか40歳とかだと現実味があって「うへ〜(キモ)」となるのだが、90歳ともなると現実離れしてくるので笑えてしまう。同時に「いや、今後有り得ることかも」と気づき、そのグロテスクさに背筋が寒くなるのだ。澤田さん演じるタレントと医師は、アンチエイジングという言葉の魔力を恐ろしく感じさせるのに充分だった。
劇団最年少だからか、魅力的な声のためか、子どもや若者の役が多い大窪人衛。初演同様、いちばんせつなく感じたのは彼演じるヤクザ者との短い交流の時代なのだった。19歳。『ポーの一族』を読む感性豊かな子。社会から弾き出された者同士が無邪気に交流し、しかし命の速度がそれを断つ。生きる速度が早すぎたヤクザ者と、生きる速度が遅すぎる者の交流は胸が締め付けられるものだった。
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09月24日(土)
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