ID:43818
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by kai
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■高橋徹也 25周年記念 Discography Live『ある種の熱 × 大統領夫人と棺』
高橋徹也 25周年記念 Discography Live『ある種の熱 × 大統領夫人と棺』@Star Pine's Cafe

高橋徹也 25周年記念 Discography Live『ある種の熱 × 大統領夫人と棺』ライヴでは定番になっているナンバーも多いけど、こうやってアルバムの曲順で演奏されていくとやっぱりそこにしか浮かび上がらない情景というものがあるなあ。インスト曲のよさも。 pic.twitter.com/SuEsaJOA8P— kai (@flower_lens) April 23, 2022
再現ライヴということになるが、再現というにはあまりにも現在の音になっていた。そしてその音こそが、今の高橋さんにとっては「本来あるべき姿」(後述ブログより)ということになる。頭のなかで鳴っていた音楽を、ようやく外に出せたという思いがあるのかもしれない。

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高橋徹也(vo, g)/ 鹿島達也(b)/ sugarbeans(key)/ 脇山広介(drs)/ 宮下広輔(pedal steel)
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2013年、ちゃんとCDを買って聴いた最初の高橋さんの作品が『大統領夫人と棺』だったなあ。そんなことを思い出しつつ、700円になっていたドリンク代に怯みつつ(現状を考えれば尤もだ)、久しぶりのSPC。

2005年リリースの『ある種の熱』、2013年リリースの『大統領夫人と棺』。スパンは8年。その間全く音沙汰がなかった時期があるという話も伝え聞いている。以降はコンスタントに作品を発表し、ライヴも定期的に行い、さまざまな企画を形にしている。『大統領夫人と棺』はブレイクスルーな作品ともいえる。

その間に出た『The Royal Ten Dollar Gold Piece Inn and Emporium』(2011年のライヴを2013年にDVD+CDリリース)と照らし合わせ乍ら聴いたところもあった。このライヴアルバムは、当時の最新作『ある種の熱』と、レコーディングを待つ『大統領夫人と棺』両方のナンバーが演奏されている。個人的に思い入れがあるアルバムで、そのときのメンバーである上田禎さんや菅沼雄太さんの演奏が、オリジナルの音源よりも耳に馴染んでいるくらいだ。特に「惑星」は、導入の上田さんのピアノソロをすぐに思い出せるくらい何度も聴いたし、今もよく聴く。

トラック順に演奏されるのが前提なので、二曲目に「惑星」がくるのは分かっていた。佐藤さんが弾き始めたイントロは、勿論上田さんのそれとは違う。しかし、今はこの音こそがしっくりきた。どちらの演奏も素晴らしいことに違いないが、今の編成で演奏される楽曲の完成形を見た気分だった。

次々に、今のバンドで見えてくる曲の顔に気づかされる。「Open End」の、宮下さんによるペダルスティールソロ。「ハリケーンビューティ」の、エフェクターを噛ましたノイズ(これは不可抗力かもしれないが)とブリティッシュロックテイスト溢れるギター。「Key West」「不在の海」の、組曲としての役割と楽曲そのものの魅力。

「大統領夫人と棺」が象徴的だった。一触即発の、火花が散るようなリズム隊のやりとり。鹿島さんがどんどん脇山さんに迫り(物理的にも近づいていた)、バックトラックの域を逸脱しかねない演奏を繰り広げる。その音を背に、呑まれることなく(とはいえ、一瞬珍しい箇所で歌詞が飛んだ。それ程の演奏だったので納得がいく)詩と歌を乗せていく高橋さんの技量と度量。バンドとフロントマンの闘いにも、信頼感の顕れにも映る。鹿島さんは脇山さんと高橋さんが乗ってくるのを踏んで、あの演奏を仕掛けているのだろう。

それにしてもまー演奏がすごい。毎回いってるような気もするが。コロナの影響もあり、この編成でやるのは3年ぶりとのこと。プロフェッショナルな集団で、各々の活動もある。フロントマンの企画によって編成が変わるし、バンドといっても所謂運命共同体ではない。しかし、このメンバーが集まったときにしか出せない音がある。それぞれのフィールドで培ったスキル、生まれたアイディアを持ち寄りぶつけ合う。まるで道場のようだ。「(外野を)黙らせてやる」とつくった『ある種の熱』、「このような緊張感を持ったものを今作れるかわからない、がんばってたんだなあ」という『大統領夫人と棺』の8年を繋げたのはこのバンドだ。


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04月23日(土)
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