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by kai
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■『唄う 小林建樹』Tateki Kobayashi Live 2022
『唄う 小林建樹』Tateki Kobayashi Live 2022

こ、この全身音楽家〜! と語彙もなくなっておりますが、ただでさえこの方のライヴって(というか人前に出てくること自体が)滅多にないことなので、せめて記録を残しておかないと……! という妙な切迫感にかられております。

昨年12月に新譜『Mystery』をリリースして以降、オフィシャルショップでのアルバムダウンロード販売、過去のMVやライヴ映像を自身のYouTubeチャンネルにアップする等、(この方にしては)動きが多くなっていた小林さん。

配信ライヴの発表には驚きましたが、当初は「新譜も出たことだし、レコ発みたいなものかな」と思っていました。配信ものにどうにも腰が重い自分ですが(本当に重い)、このひとがやるとなるとそんなことはいってられない。普段から天の岩戸がとかイリオモテヤマネコとかいってるけど、それくらい貴重なことなのでな……下手するとイリオモテヤマネコより見ないかも知れない。

という訳でいそいそと視聴を申し込み、しかしリアタイは出来ず、夜中にアーカイヴで鑑賞しました。「お待ちください」の画面がしばらく続く。そういや昨年末のMETAFIVEの配信は一時間くらい待ったなあ、リアタイ組はジリジリしただろうなあなんて思いつつアーカイヴの強みで27分程早送り。突然現れた小林さんはツーブロックであった。まずそこにヒィッとなった(そこかい)が、すかさず一曲目が始まり、息つく間もなく怒涛の演奏。

いや……ときどきtwitterで弾き語り動画をあげたりもしているけど、手元だけだったりして現在の姿をこちらが目にすることってほぼないですやん。ご本人からすると普通の感覚で髪型を変えていても、こっちは年に一度くらい(それすらも怪しい)しか目に出来ないのでヒィってなりますね。お似合いでございました。まーそれにしてもお変わりなくシュッとしてますねー。格好よいですねー。

閑話休題。1st setはギター、5分程休憩を挟んで2nd setはピアノ。新譜からのナンバーもあったが、オールタイムベストともいえるセットリスト。弾き語りという特性上、音源と全く違うアレンジも多い。怒涛の演奏と前述したが文字通りそうで、とにかく曲間が少ない、次から次へと唄っていく。思いに言葉が追いつかないので演奏しているかのようだ。ときには演奏すら追いつかない瞬間もある。それでも弾いて、唄う。音楽で生きているひとだ。

この「言葉で説明するより音楽(演奏)で伝えた方が早い」様子は、ピアノを前にするとより顕著になる。実は今回いちばんシビれた瞬間は、「完コピしようとしてて」と服部隆之さんの「新選組! メインテーマ」をパッと弾き始めた場面だった。オーケストラ編成である元の楽曲がピアノ一台の音色に集約されることで、小林さん独特のいいまわしでいうと「変わった、ちょいちょいおかしなところのある」曲の複雑なハーモニー、リズムが明確になった。そして何より胸が躍ったのは、小林さんの「新選組! メインテーマ」になっていたところ。この、寂しさを湛えた軽やかさ。

曲間のブリッジでは、まるで花が咲くように指からリフが零れおちる。次々と生まれては消えるフレーズ、ペダルを踏む音の大きさ(これ以前からそうで、最初観たときは驚いたものだった)。唄い方はよりパーカッシヴになり、楽器のよう。しかし歌詞はクリアにまっすぐ届く。今、ここでしか聴けない音楽。二度と聴けない音楽。ライヴがひとつの作品になる。

「今」は、ライヴの終盤ではっきりと輪郭を持った。『新選組!』から戦争の話題へ。キーウから「キエフの大門」、ムソルグスキー『展覧会の絵』。そしてボロディン「ダッタン人の踊り」。それぞれの楽曲を弾き乍ら、慎重に、言葉を選んで話す。穏やかな口調だが、憤りと悲しみ、歯がゆさが滲む。「ボロディンは戦わずして戦争を終わらしたいとこの曲を書いた」「ボロディンの思いが伝わってほしい」。

言葉は難し(もどかし)い。音楽(演奏)で伝えた方が早い。「ダッタン人の踊り」のフレーズから繋げたのは「祈り」だった。そうか。このための今日だったんだ。


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04月16日(土)
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