ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『パ・ラパパンパン』
『パ・ラパパンパン』@シアターコクーン

うわーんよかったああ 欲をいえば来月観たかったかな、もうすっかりクリスマスというか年末な気分に #パラパパンパン pic.twitter.com/qo5ze1gDwQ— kai (@flower_lens) November 13, 2021
なんならもう年末年始の休みに入ってる気分で、来週仕事行かなくていいんじゃね? というくらいにはなった。何故今出社しているのだろう。

タイトルを見たとき、脳内で「パンパパン♪」という歌が聴こえてきた。あー松たか子主演だしパンの話かな、ヤマザキ春のパンまつりならぬ冬のパンまつりだわ。協賛山崎製パンで。そしてまた楽屋にはヤマザキパンの差し入れが、いやいや協賛でなくともお松はヤマザキパンを差し入れしてくれる。今回もどなたかが画像アップしてくれるかしら、平田敦子さんのツイートは壮観だったわね、でも今コロナ禍だから楽屋廊下でパンまつり開催出来るかしら。
(20211203追記:オクイさんのinstaにアップされてた、パン祭り開催されてました)

とここ迄考えた。しかし落ち着いてみれば「パンパパン♪」は松下由樹のフジパン本仕込ではないか。そしてこの歌は「朝はパン」というタイトルだったのか。

前置きが長い。わかるひとにはタイトルの音節で即ピンとくるんだな、メロディ聴いて「あっ、この曲知ってる!」程度の認識でした。“パ・ラパパンパン”は「The Little Drummer Boy(Carol of the Drum)」のリリック。作家と編集者、クリスマスのお話です。パン関係なかった(…)。モチーフはディケンズの『クリスマス・キャロル』。脚本は藤本有紀、演出は松尾スズキ。『ちかえもん』で意気投合し実現したタッグとのこと。以下ネタバレあります。

一度文学賞(佳作)をとったあと鳴かず飛ばずの作家が一念発起、新作に取り掛かる。クリスマス前だから『クリスマス・キャロル』を下敷きにしよっかな〜。で、ミステリにしよう! 承認欲求の激しいこの作家、実のところ書くことに責任を持ったことがない、本気でのめり込んでモノを書いたことがない。今の話Wikipediaからの丸パクリじゃないですか! 何この時代考証めちゃくちゃ適当! 伴走する編集者のいうことはご尤も。しかしふたりの奮闘により、登場人物が動き出し……?

作家はやればできるもんの自己肯定感をガソリンに書き進める。書くことの苦しさと楽しさを知り、自分が生み出した登場人物に愛着を持ち、ストーリーを完成させようとする。編集者も、その前任だった編集長も、なんだかんだこの作家を見捨てず、尻を叩いて作品を完成させるべく奮闘する。キーパンチとともに、まずは鼻歌で奏でられる“パ・ラパパンパン”。書き手側と登場人物の世界が鮮やかに交錯し、彼らが謎と危機に立ち向かう間にもリフレインが続く。そして遂にクライマックス、本域で唄われる“パ・ラパパンパン”! 三人の幽霊と“東方”の三博士が絡み合い、『ブリキの太鼓』のエッセンスも。藤本さんの作劇の巧さに唸る。「役立たずの人間は死んでもいい」という考えへの落とし前。「死ななきゃなんとかなる」というエール。松尾さんだったら、恥ずかしがって書かないまっすぐな台詞だ。それをお松がまっすぐに言い放つ、そして唄う。これは強い。

そこへ松尾さんがノイズを加える。「雑な時代考証」のプロジェクションマッピングはツボに入ってしばらく笑いがとまらなかった。皆川猿時の独壇場では共演者の肩の震えがとまらない。仲睦まじい夫婦を演じつつ顔を伏せる大東駿介と早見あかりのさりげなさに感心、お互いを守るように抱き合って笑いをこらえる小松和重とオクイシュージが小動物のように可憐(笑)。そしてこんなときでもお松の牙城は崩れず。流石です。そうそう、お松だけでなく小日向文世の側転には度肝を抜かれた。演者を自由に遊ばせているようでいて、観客の視線を集中させるポイントはきっちり押さえる。編集者がベッドから現れるシーンは見事。松尾さんって、カタルシスへ向かう迄の助走の見せ方がホント巧い。


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11月13日(土)
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