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by kai
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■東京バレエ団『かぐや姫』『中国の不思議な役人』『ドリーム・タイム』
東京バレエ団『かぐや姫』第1幕 世界初演、『中国の不思議な役人』『ドリーム・タイム』@東京文化会館 大ホール
東京バレエ団トリプルビル。池本祥真さんが『中国の不思議な役人』で第二の無頼漢—娘役というのが自分的には目玉。ヒールに苦戦してる様子もありましたが、艶かしいのにやけっぱち感のあるキレキレの娘。役人は大塚卓さん、めちゃよかった。不思議で不気味で魅力的。いいもの見た。 pic.twitter.com/s5yfKcHsJZ— kai ☁️ (@flower_lens) November 7, 2021
モーリス・ベジャール、イリ・キリアン、金森穣のトリプルビル。『かぐや姫』初演にあたり、金森さんのルーツであるベジャールとキリアンとのプログラムになったとのことです。
『中国の不思議な役人』
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ベラ・バルトーク
前回観たのはベジャール没後5年記念公演で、フランスに移住する直前の小林十市が役人役を踊ったのでした。ちなみに十市さんはアンサンブル、役人、娘を踊った唯一のダンサーとのこと。
煤けた装置、照明、スラムを歩きまわるスーツ姿の盗賊たち。そこへ首領である無頼漢が現れ、机をバン! と叩く、と同時に弾ける群舞、バルトークの曲! スピード感もすごくて、ほぼ全員出ずっぱりの踊りっぱなし。シビれる!
無頼漢の首領役、柄本弾のルックスがとてもよい。第二の無頼漢に娘としての仕事を強要し、役人を煽る。表情、スーツの着こなし、仕草に爆発的な迫力がある。かなり重いであろうアコーディオン(あれ、本物の楽器だったと思う…中身を抜いた小道具とかじゃないと思うんだよな……)を操り乍らあれだけ動けるのも凄い。
池本祥真もいい表情。首領との確執、役人への困惑、恐怖。いつもの池本さんならピタリととまるであろうポーズが時折ぐらつく。やはりヒールで踊るのはたいへんそうだ。しかしそのハンデがあっても、キレのある踊りに目を瞠る。露わになった立派な腿には、失礼乍ら『動物のお医者さん』の「ぶっとい脚は大きくなるしるし」を思い出してしまいニコニコしてしまった。この腿があの踊りを生むのだよ。
「強要されて女装し、男たちを誘惑している」というやけのやんぱちっぷりがヘルシーにも感じられ、しかしセクシュアルな趣は薄れないというなんとも独特な娘だった。そんな娘が、役人の思いの強さを前にして変わっていく。キスシーンの表情も素晴らしかった。
そもそも原作ではまんま「娘」の役をベジャール版では「女装した男性」にしており、その捻れを観ることの面白さに改めて気付いた次第。若い男役を踊った二瓶加奈子も、かわいらしいウブな青年像だった。
さて、タイトルロールの役人(Mandarin)を踊ったのは、入団二年目の大塚卓。めちゃよかった! 不思議で不気味で魅力的。腕と脚が長く、登場シーンの痙攣のような手の動きや、印を結ぶような左右対称の型が美しくキマる。硬軟両極の動き、人工的にも見える強い眼差しで、生身の人間に見えない……アンドロイドのような雰囲気をまとう。いや、アンドロイドというより……交通事故の実験用ダミー人形のよう。重力や衝撃にそのまま身を任せているように見える箇所すらあった。つまり恐怖心を持っていないようにみえる。反面蛇のようにフロアを這う場面では身体の柔らかさが全開。不気味で怖い(褒めてる)。死に際のニジンスキー『牧神の午後』の引用も見事。
大好きな作品なんだけど、そんなに頻繁には上演されないのよね。まあ、この内容なのでな…わかる……。役人は宦官か否か、何故「中国人」なのか、何故なかなか死なない非人間的な存在なのか。いつかは上演禁止になってしまうかもしれないなんて思うこともある。それはある意味怖い世界でもある。ただ、今回のような解釈によって、印象が変わることも確かなのだ。ベジャールが今回の上演を観てどう思うか、とても知りたい。でもそれは叶わない。
『ドリーム・タイム』
振付:イリ・キリアン
音楽:武満徹
タイトル通り夢のような美しさ。装置(幕)、照明、衣裳(ロングドレス!)、武満徹の金属的な音楽と、夜空に瞬く星のような作品。自分の席からは、上がっていく幕の奥に舞台機構の金属部分が反射して見え、それがまさに星のようだった。
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11月07日(日)
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