ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■高橋徹也『KAIBUTSU 2021』振替公演
高橋徹也『怪物』アナログ・リリース記念公演 “KAIBUTSU 2021” 振替公演@Star Pine’s Cafe
いやあ、本当に渇望していたので砂漠に水がダバダバ沁みるようでした。ライヴはよい。
それにしても初めてアメリカ特に西海岸、シアトルの風を感じた。ブリティッシュロック直系だと思っていたけど……すげえ巧いベースが入ったニルヴァーナってなくらいのヘヴィーな音もあってたまげました pic.twitter.com/6wgw5eBQOH― kai (@flower_lens) July 24, 2021
今回キーボードレス編成だったからというのも要因かなあ。ニルヴァーナかよ! と思ったのは「匿名性」。重いパワードラムが入るとことかものっそ「Smells Like Teen Spirit」、これは燃える。とはいえこの曲のバンド編成を聴いたのは初めてではなくて、最初の印象は洒落た引用するなあというくらいだったのだ。サウンドそのもののヘヴィーさにシアトル、いうたらグランジを感じたのは初めて。
しかしここにフックのあるコード、揺らぐメロディが乗っかると、他に類を見ない音楽になる。ルーツを感じることはあっても、仕上がりはやはり彼オリジナルなものなのだ。さまざまな影響を呑み込み、革新的なものを生み出す。先日見たデイヴ・グロールのインタヴュー(後述)を思い出したのでした。優れた創り手は優れた聴き手でもあるのだ。
あとRHCPの「Under The Bridge」冒頭フレーズでチューニングを確かめたところあったと思うんですが、敢えてだったのかたまたま同じ音だったのかは判らない。こっちの思い込みかもしれない。ジョンはジャガーで高橋さんはジャズマスターだしなあ。ボサノヴァ、サンバといったラテン音楽は今迄もアレンジの一要素としてよく使われている印象がありましたが、モロに90年代アメリカ西部を感じたことはなかったので……ま、自分が知っていることに寄せようとしているだけかもしれないな。
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高橋徹也:vo, g、鹿島達也:b、脇山広介:drs、宮下広輔:pedal steel
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本当は昨年の2月29日に行われる予定だった公演。チケットの払い戻しが行われ、その後振替公演として今年の4月25日が設定されましたが、それも延期に(とはいえ、無観客配信ライヴはやったのです。バンド、ハコ、配信スタッフと多くのひとの尽力に感謝)。ようやくこの日を迎えることが出来ました。長かった。
緊急事態宣言下により終演時間が決まっているため、MCを極力減らす。それでもキラーフレーズは飛び出す(「俺ロス」ウケた)。チューニングはじっくり、セッティングもじっくり。楽器をだいじに、丁寧に扱う。演奏すること自体が嬉しい、楽しい。バンドで合奏出来ることが楽しい。メンバーがお互い笑顔を見合わせる場面が何度もあった。それがものっそい緊迫した演奏中、というのがこのバンドの恐ろしいところ。『怪物』の曲はより瑞々しく、鉄板曲はよりスリリングに。その季節、その日にぴったりで、演者の心境に即したものが演奏されていく。
リズム隊が跳ねまくっている。「大統領夫人と棺」などはベースフレーズの複雑さがまた(!)増しており、誰かひとりでも振り落とされたら崩壊する一触即発。その絡み合った音が一気に解放されるサビの壮快なこと。壮快なのに闇の色は深い。「いつだってさよなら」のリズムアレンジもよかったな。ペダルスティールの効果は抜群で、低音はディストーションがかかったチューバのようにも聴こえるし、ヴィブラートのかかった高音はピッコロオーボエのように聴こえるしと管楽器の音をも持ち得る。そのうえフェンダーローズみたいな音も出す。楽器の特性というよりも宮下さんの演奏力と、音を配置するときの判断力によるものだろう。
バンドとして集まれなかったメンバーは、各々この日に備えて準備してきた。自主練といえるかもしれない。楽曲に合った演奏を模索し、作品世界を探究し、ようやく集まれるようになってからはリハでライヴアレンジの細部を詰めていった。昨年の春先に放たれた“怪物”は一年半後、夏の気持ちのよい風を運んできてくれた。ひとつひとつを噛み締めるように聴く。夏の海、夜、夢に見た光景。
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07月24日(土)
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