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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『虹む街』
『虹む街』@KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
『虹む街』観てきた〜 ううタニノさんの優しさ〜! 今観られてよかったな。てかタニノさんが出演してるの初めて観た。
看板も各国の言語が滲んでて、なんとなく読めるというところに光、真意は読みきれないというところに影(終演後セット撮影可でした) pic.twitter.com/WGWFlHhybg― kai (@flower_lens) June 19, 2021
NOHANTとユ・アインのコラボブランド『newkidz nohant』をちょっと思い出したり。これウマいデザインだよなあ。あと最近ではFoo Figters × 楯の川酒造の『半宵』とかね。読める読める(ニッコリ)。稲田美智子による美術です。ネオンの質感も素敵、照明はKAATの(おなじみ!)大石真一郎さん。自動音声の筈なのに命が宿っているようなコインランドリー、占いゲーム、ホットスナックの販売機。薄く聴こえる雨音と、佐藤こうじさんの音響も繊細。
初めて入った中スタジオは、歌舞伎座っぽい間口の広さ。二層になっている装置の上方は、前方の席からは見えませんでした。おそらくどこから見ても死角はある。そもそもひとの生活は見せるようには出来ていない。同時に全てを知ることは出来ない。お互いがお互いに開いた部分のみで、協力し、助け合い、深入りせずに生きている。そのことに苛立ったり、安心したり。
ここ数年のタニノクロウさんは、公演が行われる(=劇場がある)場所に長期滞在し、その地に暮らす人々とクリエイションを行っています。呑み屋に通い、お店のひとや常連客と仲良くなり、それを作品に活かす。出演者も地元のひとから募る。今作も神奈川県民との創作が予定されていましたが、コロナ禍により出演者オーディションが困難となってしまいました。今回はフィールドワークとシナリオハンティング、オンラインでのインタヴューとともに、座組み全員で横浜の街歩きツアー(後述の安藤さんのインタヴュー参照)も行ったそうです。出演者はタニノ演出を熟知している演者を中心に、多国籍なメンツが揃いました。
そこで気付くのは自分の偏見。例えば観劇後に読んだ当日パンフレットで、アンジェラを演じたのが小澤りかさんという名前だと知る。「え、フィリピン人だと思ってた=日本人だったんだ」と思う。その背景には「日本人だけどフィリピン人の演技がうまいなあ」「日本人だけどちょっと日本語の発音が独特だったなあ」「日本で暮らしてどのくらいなのかな?」という、舞台上のアンジェラから受けた印象がある。ご本人のtwitterプロフィールには「フィリピン × 日本 マルチ役者を目指します」。名前とは何ぞや、演じるとは何ぞや、そして演技を見る自分の思い込みとは何ぞや。
コインランドリーにやってきたひとびとは、同じ洗濯機に洗濯物をどんどん足していく。入れ替えるのではなく、運転途中の洗濯機に途中から放り込んでいくのだ。「洗剤足りるのか」「今すすぎなんじゃないのか」というツッコミもあれど、場の雰囲気から感じとるのは利用者のこだわらなさと、経済的な事情。移民、出稼ぎ労働者、難民認定の難しさなど、根深い問題が浮き彫りになってくる。
彼らは互いに励ましの声をかけ、自分の持っているものを与えようとし、笑顔を交わし、それぞれの国のソウルミュージックを唄う。そこに行政の力は届かない。綺麗事だと笑うひとも、何もわかってないと怒るひともいるだろう。『アメリカン・ユートピア』を観たばかりということもあって、“エイジアン・ユートピア”に思いを馳せる。コインランドリーというサロン(今思えばこれ、イキウメの金輪町における理容店だな)を失った街の住人はどこに行くのだろう。都市再開発と過疎の問題も顔を出す。2017年の『ダークマスター』には中国人の地上げ屋が登場したが、2021年の日本で何が起こっている? タニノさんの視線の先を考える。
観終わったあと、これに気づくとほろりとなる。あの子とこのいぬが巡り会うといいなー、この言葉をあのひとが読むといいなー pic.twitter.com/n7O6jEy23v― kai (@flower_lens) June 19, 2021
終演後のセット開放で見つけてほろり。言葉少なな登場人物に代わり、雄弁な美術。
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・『虹む街』で刺激される視覚と聴覚〜タニノクロウ、作品世界を語る〜┃SPICE
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06月19日(土)
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