ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■イキウメ『外の道』
イキウメ『外の道』@シアタートラム

こっこっこわかったあああああ で、怖いと分かると怖くない(どっちだ)。道を外れる勇気はあるか? #イキウメ #外の道 pic.twitter.com/PS82xExKuS― kai (@flower_lens) June 12, 2021
あのーなんていえばいいかな、普段のイキウメを逆から観た気分。

イキウメの作品から受ける印象って、いつもだと「あなたの足下には死体が埋まっています」「え、怖い!」「でも考えてみてくださいよ、日本列島が出来て何年経ってると思います? 三億年ですよ?(えへへわかんなかったので検索しました)そして日本という国では一年間に何人くらいの死者が出ると思いますか? ちなみに昨年は138万4544人だそうですよ?(はい、これもわからなかったので調べました)人口の違いはあれど、軽〜く計算しても3億年×100万人として……死体が埋まっていない場所を探す方が難しくないですか?」「あ、怖くない!」という感じなのです。私は。

それが今回は、「世の中の仕組みはとても便利」「うん、助かる!」「でも、それってよく考えると奇跡的じゃないですか? なんでこんな複雑なシステムが日々滞りなく機能しているんですか? 破綻しない方がおかしいでしょう」「……怖い!」という感じでした。あーでもこういう面もあるか、イキウメって。

普段あたりまえだと思っていること。宅配便が届くこと。行政文書の内容は間違いないこと。「家族だから」という言葉。ちょっとしたタイミングで、その仕組みがズレてしまったら? 某案件の文書が改竄されていたり、はたまた開示された文書が海苔弁のように黒塗りだらけだったりというニュースを前に、果たして信用出来るものとは何か考え込む今、こんな芝居を観てしまったらたまったものではありません。ひとは、ひとを信じることで生きている。信じられるひとを探し、出会い、コミュニティが生まれる。

今作の登場人物は「信じてくれる」相手を見つけ共闘を組みますが、その闘いは徹底した個人主義のもとに行われます。ひとりで立つ。ひとりで立ち向かう。そこに非常に勇気付けられたのでした。これをパンクといわずして何という。ただ、それは社会での死を意味します。まあ正直肉体の死をも意味するかもしれません。しかし、その先にあるのは果たして「死」のみだろうか? いや、それが「死」だとして、それは怖いものなのだろうか? そんなこと迄感じさせてくれる舞台でした。

それにしても池谷のぶえと安井順平……すごい(語彙)。膨大な台詞量を聴かせる声、語りの妙味。そして何より会話がべらぼうに巧い。もともとイキウメ作品の台詞って言葉遣いに性別を感じさせないのですが(これは意識的だと思う。同様に、今回苗字が違う兄弟が登場していることも、「それが特別なことではない=そこに疑問を抱かなくてよい」世界を描いているのだと捉えました)、それがいつにも増して効果的なうえ、リアルに聴こえた。これは結構驚きで、池谷さん以前と池谷さん以後で歴史が分けられそうな程。観客に向けた台詞として聴けると同時に、それこそ喫茶店の隣の席で聴いているかのような自然さなのです。なんてリアル、そしてなんて格好いい。「どうよ、誤配の方は」とか声に出していいたい日本語だわ。対する安井さんは「理路整然と罵詈雑言」のキャッチコピーズバリの話芸を持つ方。所謂論文発表的な言葉遣いなのに、日常会話の延長として聴ける。このふたりがタッグを組めばそりゃ最強。こちらの喜怒哀楽すらコントロールされているようにすら感じました。通る声とはこういうことか。完全暗転が活きるシアタートラム(ここ、ホント真っ暗になるよね)で、あの暗闇を保たせるだけの声を持つふたりです。ドップリ堪能、耳も幸せ。


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06月12日(土)
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