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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『KCIA 南山の部長たち』
『KCIA 南山の部長たち』@シネマート新宿 シアター1
朴正煕(一発変換出来るとこに歴史を感じる)大統領暗殺迄の40日。このあと『タクシー運転手』があって、『1987』迄軍事政権が続く。よく諦めなかったなと感嘆もするし、どれだけの犠牲があったのか想像するだけでも気が遠くなる。読了したての『少年が来る』が助けになった〜
『KCIA 南山の部長たち』 pic.twitter.com/EYDwsmFwxR― kai (@flower_lens) January 24, 2021
うう、よりにもよって顔部分がトリミングされて見えない。画像をクリックすると全画面が見られます。
朴槿恵のお父さん、といった方が今はわかりやすいかな。1979年に起こった朴正煕大統領暗殺事件(10・26事件)を実行犯側から見る。原題は『남산의 부장들(南山の部長たち)』、英題は『The Man Standing Next』。2020年、ウ・ミンホ監督作品。
ツイートにある映画、書籍についてはこちら。
・『タクシー運転手 約束は海を越えて』(1980年、光州事件)
・『1987、ある闘いの真実』(1987年、朴鍾哲拷問致死事件〜6月民主抗争)
・ハン・ガン『少年が来る』
『少年が来る』は光州事件について書かれた小説ですが、「朴正煕と車智(警護室長)の関係」「釜馬民主抗争」「南山が市民からどれだけ恐れられていたか」についての丁寧な注釈があり、軍事政権下当時の様子がわかります。警護室長を「こいつがあのカンボジア云々の……」と憎々しく見ていたら終盤正にその台詞が出たので、本国では誰でも知ってる的な発言なんだろうな。大統領暗殺後KCIAは改編されますが、南山の組織は80年代末迄機能し続ける。パンフレットによると、現在庁舎の旧本館はユースホステルになっているとのこと。それもすごいな……。以下ネタバレあります。
実在の人物からちょっと名前を変えてあるので、あれがあのひと、これがえーととか考えてるうちにどんどん駆け引きが進みアワアワする。とはいえ、独裁者の暴政をどうにか止めなければ、と側近が追い詰められていく過程が緻密かつ緊張感を維持し描かれ、ぼんやりしている暇はありません。そうそう、最後にイアーゴ(シェイクスピア『オセロー』のあのひと)と呼ばれていた人物の正体が判明するんだけど、これも名前が変えてあったんで劇場出てから「あ、あいつかー!!!」て気づいたよ。このひともう「名前をいってはいけないあのひと」みたいな扱いだよね……ちなみに2008年製作の『星から来た男』でもやはり名前は出されず、「ハゲ男」と呼ばれていた人物です。RGに是非モノマネしてほしい。なんか似てた。
過去の出来事として描くにはまだ生々しさがある、存命の関係者も少なくはない80年代の事件。作品化にはいろいろと制約があるのでしょうが、それでも自国の暗部をこうして公開し、観客からの支持が得られていることに感嘆する。「民主主義」の価値を肌で知り、それを再び奪われてはならないという考えが浸透しているのでしょう。
イ・ビョンホンが素晴らしい。端正な顔立ちが、数々の軋轢と忖度とストレスで段々ゴムの皮膚被ってるみたいに見えてくる。土砂降りのなか忍び込んだ接宴所で盗聴するシーン、頬を流れるその雫は雨なのか涙なのか……大統領を暗殺するしかない、という心境に至る迄の無表情(の使い分け)が見事。彼の演技を信頼してのことだと思いますが、その表情を捉える長回しが多用されている。またその画面が“持つ”んですよね。すごい役者さんだなあと改めて思いました。
そして大統領を演じたイ・ソンミン、かわいく見えちゃうのがやばい。ひとたらしだなー、これにあてられた部下も多いんだろうな思わせられちゃうのがもうやばい。マッサ(マッコリ+サイダー)の思い出話とか、ズルいよねえ。お前には私がついてる、お前の好きなように、やりたいことをやれみたいなことを誰にでもいって、結果起こったことを「やりすぎだ、後始末は自分で責任もってやれ」と切り捨てる。日本のどっかで聞いたような話ですね。しかもつい最近ね。手酌で酒を呑み、ひとりごとのように唄う。理解者を得られず、だからといって助言も受け入れられない。もう戻れないところ迄来てしまった独裁者の姿を寂しさとして見せる演技でした。
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01月24日(日)
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