ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ダークマスター VR』
庭劇団ペニノ『ダークマスター VR』@東京芸術劇場 シアターイースト

『ダークマスター VR』いちばんびっくりしたのはあの「いい匂い」がしたこと。ゴーグルとヘッドフォンで視覚と聴覚を覆われている外で「何かされてる」ってのが怖いやら面白いやら。あと自分が「右利きの男性」の主観になるムズムズ感がもう pic.twitter.com/swTuk8tdt2― kai (@flower_lens) October 10, 2020
いやあ、近頃のVRは匂いも再現出来るんですね。どのくらい視界を動かせるのかと序盤はあちこち向いてみたのですが、ある一定のところ迄いくと景色が止まってしまい、それ以上奥にはいけないこともわかってなかなか興味深かったです。
(20201019追記:……と書きましたが、実はその匂いは……後述)

少し前にtwitterで「#舞台上で調理を行う演劇作品」というハッシュタグがまわっていました。それを見て真っ先に思い浮かべたのがこの作品。三年前にこまばアゴラ劇場で観たときは、年季の入った洋食店でつくされる料理の数々に生唾を呑み込んだものでした。

それを今回VRで上演するというのです。迷うことなくチケットを確保しました。VR自体も初体験、乗り物酔いのような症状があらわれる場合もあるとのことで、ガイドラインに従って事前に酔い止めを服用。当方豊洲のぐるぐる劇場で酔うくらいの三半規管ですが、操縦の上手い飛行機とかは全然大丈夫なんですよね……。ちょっと迷ったのですが、具合が悪くなってからでは遅いし、当日は台風接近のため気圧も不安定だったので準備万端で臨みました。

1公演につき観客は20名。この日は5ステ、そのうちの3ステージ目に参加しました。ロビーでまずはゴーグルとヘッドフォンの装着方法と、何かあったときの対応についての説明を受ける。案内されて劇場内に入る。だだっ広いフロアに机と椅子が20席分、二列に並んでいる。青いネオンライトの動線に従って着席。席間はマジックミラーで仕切られている。なんかイメクラの個室っぽい……ストーリーを知っているのでこれも演出の一環として楽しめました。セッティングを終え開幕です。ヘッドフォンから女声のナレーション。自分と他人の身体の区別は? この体験は本当に自分が体験したことか自信が持てますか? 催眠術にかけられる前の呪文のよう。やがて目の前に「キッチン長嶋」の扉が浮かび上がります。

ストーリーはよりシンプルに、より原作に近づいた(戻ってきたというべきか?)。都市再開発とか外国人の地上げ屋とかは今回はおいといて。だいたい今、外国からひと来ませんからね。「このご時世外食するやつが減っちまった、テイクアウトばっかりで」というマスターの言葉どおり、この上演は2020年の秋現在を映し出したものになっている。VRを使うからには、という「お店でプロのつくったごはんを食べる」「厨房に入って料理をつくる」という醍醐味にウエイトを置いたものになっていました。これがまー楽しい。観客として作品を鑑賞していたこれ迄の上演とは違い、登場人物に自分がなるのです。自分の意思では動けない。首を動かして周囲を見回すことは出来るが、こちらの意思とはおかまいなしにマスターはコロッケ定食をつくるし、出された定食を食べる。店で働くことになり、イヤフォンから聴こえてくるマスターの指示どおりに料理をつくり、出す。客がどんどん来る。売り上げの札束を眺め、酒を呑み、デリヘルを呼ぶ。

食べたのはコロッケ定食、つくったのはヘレステーキとナポリタン。オムライスはつくる過程はなく、場面が変わったらもう出来あがって手に持っていた(笑)。コロッケの揚がる匂い、牛肉を焼く匂い、この辺り迄は「なんかいい匂いする……いやでも視覚と聴覚を刺激されたことでそう感じるのかも……」と思っていたけれど、決定的だったのはナポリタンをつくったとき。ケチャップのにおいがハッキリしたのです。それを炒めることによってますますあの酸味と甘味が際立って……キエー! 劇場内で匂いを撒いてんのかなと思ってゴーグルの隙間から様子を見たりしてたんですが(笑)そんな様子もなく、ここは結構狼狽しました。帰宅後調べたところによると、ゴーグルに匂いのカートリッジを仕込めるものがあるらしい。


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10月10日(土)
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