ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』
ケムリ研究室 no.1『ベイジルタウンの女神』@世田谷パブリックシアター
規制緩和に伴う追加席(感謝!)ケムリ研究所『ベイジルタウンの女神』千秋楽にすべりこみ。観られてよかった。KERAさんの優しさが出ていたなあ。こうあればいいのにという世界。それは決してあり得ない世界ではなく、どんな人間にも居場所があるということを譲らない世界。 pic.twitter.com/intJjMnhzK― kai (@flower_lens) September 27, 2020
ケムリ研究所→ケムリ研究室。失礼しました! ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきが立ち上げた新ユニットの第一回公演です。こちらも規制緩和に伴い、前楽と楽日計3公演の追加席が発売になり行くことが出来ました。当日二日前にチケットを確保、慌てた慌てた。キューブのアナウンスによると、「総席数の約50%以下での配席」を「80%まで上限を引き上げ」たとのこと。助かった……ぜんっぜんとれなかったもので。
暗転から照明が灯った瞬間、目に飛び込んできたのは緒川さん演じる女神、とその従者(に見えた)。その立ち姿の美しいこと! 黒須はな子による衣裳も輝くよう。絶妙なオープニング。小野寺修二によるステージングが見事。廻り舞台を使うでもなく、黒子役と照明の移動で車が走る。二階席から観たのだが、運転席と後部座席はセパレートなのにも関わらず全くぶれずに旋回していたのに鳥肌。あっという間に作品のなかへ入っていけた。
都市開発のために、そこで暮らす住人を追い出す。オープンしたばかりのMIYASHITA PARKのことを連想する。大企業の社長は賭けをする。貧民街のベイジルタウンを再開発するため、そこで一ヶ月暮らしてみせる。賭けの相手はかつての小間使い。賭けは成功するのか? かつて「親友」だったふたりの関係はどうなるのか? 腹に一物ありそうな社長の夫、社長に長年仕えた心優しい執事、一癖も二癖もあるベイジルタウンの住人たち。ケラさんお得意の群像劇に、今回は優しさが溢れていた。
「こういうひとなのよ」という言葉の重さ。水道のハットンは、ベイジルタウンの住人からは「こういうひと」として了解されている。彼のふるまいに観客は笑うが、やがて「ああ、こういうひとなんだ」という了解が拡がる。終盤、街を救うことになる彼の演説を包む笑いと、最初の笑いは違うもののように感じる。アル中のドクターは何度も過ちを繰り返してしまうが、やっぱり排除されることはない。ベイジルタウンには、かつて安定した仕事をしていたひと、かつて懸命に働いていたひとやってくるし、生まれたときから住んでいるひともいる。この街は誰もを迎え入れるし、誰も追い出さない。迎える大団円はちょっと苦い。それでも観客は彼らの行く末に拍手を贈らずにはいられない。
こうあればいいのにという世界。それは決してあり得ない世界ではなく、どんな人間にも居場所があるということを譲らない世界。今観られてよかったし、何年か、何十年かあとにまた観たい作品。
浮世離れしているけれど、賢く優しく強く頑固。こんなキャラクターを演じられる役者さんは少ない。緒川さんは本当に素敵。高田聖子演じる小間使いの複雑な心情表現も素晴らしかった。山内圭哉の二役(を振ったところにKERAさんの愛を感じたなあ)も愛嬌たっぷり。特に水道のハットンはさじ加減が難しい役どころ、ウケを狙わず「ああ、知ってる、こういうひと」と観客に思わせるまっすぐな演技で好感。そして菅原永二! 憎たらしいけどヌケていて、憐れを誘う。笑える哀愁を演じさせるとホント絶品。仲村トオルと水野美紀の兄妹もいい塩梅でした。
それにしても、今のこの環境で……ということを全く感じさせない仕上がり。観客席の最前列は使われていなかったが、もともとSePTは舞台と客席の間が結構空いている。普段と全く変わらない、という印象の陰で、出演者とスタッフがどれ程節制しているのかと想像して頭が下がる。終演後の楽屋訪問も禁止だそうで、役者仲間の誰が来ているのかも判らない、感想も聴けないから不安、というひともいる様子。先が見えない現状だけど、制作側の負荷が軽減されることを願ってやまない。
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09月27日(日)
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