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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『がんばれ!チョルス』
『がんばれ!チョルス』@シネマート新宿 スクリーン1
シネマートが開いててうれしいな〜『がんばれ!チョルス』観てきたよ〜……って、ドタバタ楽しいコメディだと思って行ったらこここんな話だったなんて チャ・スンウォンよおお、そして子役の子がめちゃうまい pic.twitter.com/ydZJ2n2Hor― kai (@flower_lens) June 13, 2020
そもそもは明るく楽しいコメディで笑ってシネマートの再開を祝おう! という気分でこの作品を選んだのでしたが……うおおいこんな情に厚い話かよ! せつないよ! 思えば『がんばれ元気』も明るく楽しそうなタイトルだけどいろいろと激烈な出来事がありましたね…はい、例えが古いですね……。あっ、あと『がんばれ!!ロボコン』も(以下略)
原題は『힘을 내요, 미스터 리(元気を出して、ミスター・リー)』、英題は『Cheer Up, Mr. Lee(がんばって、ミスター・リー)』。2019年、イ・ゲビョク監督作品。「元祖コメディ俳優であるチャ・スンウォンが12年振りにコメディ映画にカムバック!」という惹句は鑑賞後に見ました。そ、そうだったの!? まさにその「12年」中に知ったので、モデル出身でアクションもバリバリ出来る二枚目俳優、コメディもお手の物で舞台でも活躍、という、日本でいえば阿部寛(実際顔立ち含めすごく似ているといわれていますよね)みたいなイメージだったんです。あと『三食ごはん』(韓国のバラエティ番組)のエピソードがよくtwitterのTL上に流れてくるので、料理も得意なんだねーみたいな。ここでのふるまいが話題を呼び、チャジュンマ(=チャ+アジュンマ(おばちゃん))と呼ばれてるんですよね。ちなみに今作のオープニングはスンウォンさんが手打ちカルグクスをつくっているシーンで、それがまたえらいおいしそうなのがリアルでした(微笑)。
さて本題。知的障害があるらしいチョルスは、弟が営むカルグクス店の手伝いをして暮らしている。近所のひとたちとの関係も良好の様子。ある日彼は誘拐され、自分に白血病を患う娘セッピョルがいることを知らされる。セッピョルはともに病と闘っている仲間のために、大邱へ行く計画をたてている。かくして父子の珍道中が始まり……?
ちいさな謎が積み重なる。チョルスは地下鉄を、彼が通うジムのオーナーは大邱へいくのを怖がっている。セッピョルが大邱を目指す理由とともに、謎が少しずつリンクする。この謎明かしの順番が巧くて(TVドラマの使い方とか)、「なんでなんで? それでそれで?」と途中からミステリのノリで観ることになりました。謎はひとつの事故に集約される。日本でも大きく報道されたらしいそのことは全く記憶になかったのですが、本国のひとたちはすぐにピンとくるのでしょうね。実際知らない者にも「これ……実際にあったことだな?」と了解させるには充分な描写でした。帰宅後「2003年 大邱」で検索し、チョルスたちが遭遇した出来事と、それからの彼らの闘いを想像することになりました。
自分が観ている作品にたまたまそういうものが多いのかも知れないが、韓国は実際にあった事件や事故を芸術(娯楽)作品に昇華させる勇気があると感じる。忘れ去られてはいけない、なかったことにはさせない。歴史を記録に残す、という使命感といえばいいだろうか。チョルスの言動にはコミカルな色づけがなされているが、決して当事者を貶めるような描き方ではなかったと思う。登場人物たちは皆悩みを抱えているが、揃ってどこかヌケていて、困っているひとを放っておけない。優しいけれど過去の顔があるジムオーナー、確執がある相手にやたら金払いのよい祖母、兄に振りまわされつつも常に彼のことを案じている弟とその家族……自分のおかれた境遇に腐らず、懸命に生きる。人間の善性を信じたくなる作品でした。
それにしてもセッピョル役のオム・チェヨン素晴らしかったなー。あの瞳の力強さ。小児病棟のこどもたちが皆大人びて見えるのは、そうならざるを得ない環境だからだ。安易に次を、「明日にしよう」と語れない。誕生日は生まれたことを祝うのではなく、死なずにまたその日を迎えられたことを祝うのだ、という台詞は胸に迫りました。
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06月13日(土)
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