ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647938hit]
■『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』@TOHOシネマズ新宿 スクリーン4
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』二度落涙。一度目は彼女に起こっていたかもしれない過去に、二度目は彼女に起こらなかった未来に。タランティーノ監督の大ボラはいつも胸に迫る pic.twitter.com/2E5UTUzMDB― kai (@flower_lens) September 1, 2019
タランティーノは教えてくれる。映画の虚構はときにひとを癒し、不遇な魂に安息をもたらす。以下ネタバレあります。
タランティーノ作品が公開されると、必ず映画館に足を運ぶ。『パルプ・フィクション』でこの監督を知ったので(正確にはまず『トゥルー・ロマンス』の脚本家として知った)、『レザボア・ドッグス』はリバイバルで観た。ふらりと入った映画館で、沢山のひとと一緒に観ているのに、暗闇のなかひとりだけの空間を感じられるのが好きだった。皆と一緒にドッと笑い、ひとに見られていない安心感からこらえることなく涙を流す。立ち見で観てもそれは同じ。
シネコンが主流になり、席は事前に予約するのが普通になった。今は立ち見が出来ない映画館も多い。SNSをのぞくとネタバレに当たる可能性があるから早めに観に行かなければ、なんて焦燥感も湧く。環境は随分変わった。とはいえ、過去を懐かしんでも、それがよかったとは限らない。現在は予想もしなかった驚きと喜びに満ちている。90年代にキャリアをスタートさせ、同じ時代に成長したふたりのハリウッドスター、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演を観ることが出来るなんて。凄惨な事件の主人公としてしか知らなかったシャロン・テートの素顔を(それが想像上のものだとしても)見られるなんて。死後半世紀を経て、こんな彼女の未来を見られるなんて。
パーティー三昧、とりまきや友人たちに囲まれる毎日。華やかなくらしをしているシャロン。同時に映画は、感性豊かなひとりの人物としてのシャロンを描く。夫へプレゼントする本(『テス』)を買うため書店に寄り、映画館に入る。自分が出演しているコメディを観る。自分の演技に笑いが起こる。そのときの彼女の表情! 今でも思い出すだけで涙が出てくる。キャリアはこれから。もうすぐ生まれてくるこども。明るい未来しかなかった筈の彼女のとある一日。映画の魅力と可能性を知り尽くしているタランティーノが用意したプレゼントだ。映画は多くのひとに語りかける。映画はひとりに寄り添う。マーゴット・ロビーが素晴らしい。その美しさ、その笑顔。“ギフト”を持つ者の輝きだ。『イングロリアス・バスターズ』におけるメラニー・ロランを思い出す。
「その日」が近づくにつれ、不安は拡がる。彼女の笑顔が輝けば輝く程、悲しみが募る。同時にタランティーノはどういう展開を用意しているのか? と期待も膨らむ。果たしてそれは予想もしなかった結末を迎える。虚構の登場人物ふたりがシャロンを救う。演じているのはブラピとレオ。ハリウッド屈指のスターふたりが、おちぶれかかっている役者とそのスタントマン(あまり仕事がないので付き人も兼業)を演じる。魑魅魍魎が跋扈するハリウッドにおいて常に第一線で活躍してきたふたりが、だ。正気を保つのが難しい浮かれた業界を憎み、悪意にバイオレンスで立ち向かい、自分の中の暴力性を肯定する。それが自身を傷つけることもわかっている。傷は深い、後戻りは出来ない。刃の上を歩くような人物を演じるのに、こんなにふさわしいふたりはいない。ブラピ演じるクリフ・ブースが“爆発”するクライマックスに思わず快哉を叫ぶ思い。
[5]続きを読む
09月01日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る