ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『BLUE/ORANGE』
『BLUE/ORANGE』@DDD AOYAMA CROSS THEATER

ひとりの黒人患者を、ふたりの白人精神科医が診る。退院に難色を示す研修医と、退院させたい彼の上司。ひとは総じて差別をするいきもので、それを意識の持ち方と言葉の使い方でコントロールしている。そこには常に時間(時代)が横たわる。ということをまざまざと見せつける2時間50分。緩急自在のダイアログで見せきった成河、章平、千葉哲也! 会話劇の醍醐味!

再演。初演は逃しており、今回が初見です。作:ジョー・ペンホール、演出:千葉哲也。ちなみに初演は2017年に亡くなった中嶋しゅうさんの企画で2010年に上演。キャストは

中嶋しゅう:コンサルタント(研修医の上司)
チョウソンハ:患者
千葉哲也:研修医

だったそうです。今回は

千葉哲也:コンサルタント(研修医の上司)
章平:患者
成河:研修医

おおうあの患者が成河さんだったのかい……それは観たかった〜。というのも、今回患者を演じた章平さんと成河さん、体格も声のトーンも全然違うのです。正反対といっていいくらい。感情のタガが外れたときの患者は、膨大な言葉を大声で矢継ぎ早に話し続けるのですが、成河さんのハイトーンな声だったらさぞ癇に障ったであろう。章平さんの声は落ちついているけれど、その早口と大きな身体を使った多動には威圧感があり、研修医は身体的な危険を感じただろう。初演で研修医を演じたのが千葉さんというのも、今回のコンサルタントを観てしまった今となっては想像がつかない。あの! 狡猾な! 息をするように差別を口にするコイツが(役がですよ)!

コンサルタントの第一声からの数分は、カタログを作れそうな程の差別発言が並ぶ。このシーンは「以降こうした発言が続くよ」というちょっとした基準になっている。サッカー……いや、劇中出てきたラグビーに例えた方がいいかな。試合が始まって最初のラフプレーを、その日のレフリーはどう判断するか。ファウルか、それともアドバンテージをとるか。観客それぞれがレフリーとなり、この日のやりとりを考える。これは相手がそういったからだよな、これは言葉の綾で、これは過去の過ちを検証するという意味で口にしただけで……。スポーツのルールが時代によって変わるように、社会のルールもまた変わる。この戯曲の基準はいつ迄通用するかな、と思う。しかし同時にこの戯曲が面白いのは、演者がどこに基準を置くか明確にしないことで、いかようにも受けとれることだ。矛盾するようだが、そうなるとこの戯曲は古くならない。

そしてSNS全盛の今、「その発言だけを切りとり、拡散する」という要素に強度が加わった。これで「検証するという意味で口にした」が無効になる。恐ろしい世の中ですね。ヘイターに向かって◯ねとかク◯がとかいってるひとも、ほうら切りとれば立派なヘイターです。ま、これはある意味本質を表している。そういう言葉を使うひとはそういうひとです、というね。つくづく言霊というものはやっぱりあるなという結論に落ち着く。「私、差別しません! レイシスト◯ね!」ていうひとがいちばん怖いわ。

登場人物三人は、言葉を使ってコミュニケーションをとらねばならない人間の物悲しさに溢れている。言葉を使うあまり、感情が昂ぶり、判断力が鈍り、伝えたいことと正反対の言葉を口にする。予備知識を入れずに行ったので、一幕目中盤からは「実は自分のことを研修医だと思い込んでいる患者と、患者のふりをした医者のやりとりなのかな?」なんて思って観ていた。それくらい、皆が病気に見える。ひと皮剥けば人間誰もが同じ生きもの、それでもひとりひとりは違う人間。青いオレンジという言葉は重い。


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04月06日(土)
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