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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■さいたまネクスト・シアター『第三世代』
世界最前線の演劇 2[ドイツ/イスラエル]さいたまネクスト・シアター 『第三世代』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)
ネクストシアターの面々がぼちぼち揃ったよ〜。外部や関連公演で観ていたひとも、お久しぶりのひとも。劇団公演をホームで観られてうれしいことです。『ジハード』に続く、『世界最前線の演劇』シリーズ。『紛争地域から生まれた演劇』に連なるシリーズでもあります。
2009年、ベルリンで初演。WW2当事者の孫世代(第三世代)であるドイツ人、イスラエル人、パレスチナ人が本人の名で本人の背景を用いて劇作し、観客の多数がドイツ人という環境で上演された作品。ドイツ語、英語、アラビア語が飛び交い、ドイツ人はアラビア語が解らずイスラエル人はドイツ語が解らない。ドイツ人のなかには東ドイツ出身の者がおり、パレスチナ人はイスラエル在住であり、キリスト教信者のアラブ人もいる。作(構成)者は自身も第三世代である1976年生まれのヤエル・ロネン。イスラエルを代表する演出家で、シオニズムに否定的な人物。
社会的に意義あることだと集まった出演者たち。平行線の議論、一触即発の状況。そのうち一部の参加者にはギャラが発生していること、助成金を出したのはドイツで、イスラエル側は決して協力的ではなかったということが判明する。ワークショップを積み重ねている段階でこうしたことが露呈していったのだろう、最終的にはプロジェクト自体が破綻した状態になる。しかしロネンはそれをそのまま舞台に載せた。初演はある種ドキュメントの力を持った作品になったわけだ。
今回の上演は、それらのシーンが既に前提だ。初演のメンバーにとっては作品の本質から外れた部分である出来事を、今回はドラマとして芝居に内包しなければならない。この辺りをいかに見せていくか、という試行錯誤が窺えました。そのうえこれを日本で、日本人が、日本語のみで上演することの難しさ。演出を手掛けたTRASHMASTERSの中津留章仁は2012年のリーディングからこの作品に携わっており、日本の役者たちと創意工夫を重ねてきたようです。観乍ら考えていたことは、「これ、日本、韓国(北朝鮮)、アメリカで再構成出来るかなあ……」ということ。アフタートークでもちょっと話題になりましたが、日中韓に置き換えたらどうなるかなあという議題はあったようです。在日コリアンの存在は、イスラエルに住むパレスチナ人と通じるものがあるかも、とか。
遠くの国で起きていることを、想像力をフルに使い身近に感じようとする。そうすると、現在実際に戦闘が続いているガザ地区の住人に心を寄せるべきなのか? という自問が湧きました。しかし、告発者のパレスチナ人はガザ地区に住んでいない。イスラエル側がステレオタイプに描かれているのもいささか分が悪い。そしてふと思う、これらの問題ってアメリカの存在なしには語れないのではないだろうか? 日中韓の問題にしても同様だよな…結局割を食ってるのはその場で暮らしているひとたちになっちゃうんだよなあ……などと考えだしてしまいしょんぼりする。
とはいえ、笑えるシーンもあるのです。イスラエル人たちがホロコーストの知識を得た途端にフォークジャンボリーな歌を唄い出したり(またこれがペラペラな歌詞でニヤニヤした。ついでにいうと歌が調子っぱずれで……いかにもな下手さ加減で絶妙だった。ほめてる)、参加したいデモが多すぎてスケジュール調整に四苦八苦するドイツ人がいたり。ユーモアだいじ。だけどこれはシニカル。一歩間違うと地獄を見ますね。非常にフラジャイルな場面なので、日によってはウケないこともあるかも。客いじりもあり、この日話を振られたひとりは意見を語り、もうひとりは沈黙したままでした。どちらの反応でも滞りなく進行するのでご安心を。とはいえ、ここで芝居が中断する可能性だってある。そのとき演者はどうするかな、といった興味も湧きました。
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11月10日(土)
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