ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647672hit]

■『ダークマスター』
庭劇団ペニノ『ダークマスター』@こまばアゴラ劇場

岸田戯曲賞受賞後初の関東公演になるのかな? 再々演くらいらしいですが、今回は関西プロジェクトとして大幅に改定が加えられたとのこと。原作は『オールドボーイ』の狩撫麻礼、書籍は絶版ですが電子書籍で読むことが出来ます。

・泉晴紀、ダークマスター『オトナの漫画』ビームコミックス Kindle版
(第0話。「ダークマスター」はタイトルではなく、狩撫麻礼の別名義)

とある洋食屋。店主の腕は一流、しかし偏屈で接客が下手。そして重度のアルコール依存症らしい。ある日ひとりのバックパッカーが店に迷い込んでくる。その男は職に就かず、日本中を旅している。携帯も身分証も家においてきていると話す。そうだ、こいつに仕事を代わってもらおう……。店主は男の耳にイヤフォンを仕込み、階上の部屋から料理の手順を指示するという。そのとおりにつくればおいしい洋食が出来あがり、客は喜んで帰っていく。やがて店は行列が出来る程の評判になるが、店主はあの日以来部屋から出てこない……。

ペニノの公演を心待ちにしていた昨年、こんなエキストラ募集の告知がtwitterに流れてきました。「舞台上で美味しい洋食を食べませんか」……??? ペニノを観るようになったのは2013年からなので、このときは『ダークマスター』の存在を知りませんでした。関西の公演を経てやっと東京での上演がはじまり、さてtwitterに流れてくるのは「腹が減るので食事してから行った方がいい」「(劇場近くの)キッチン南海でごはん食べて帰りたくなる」「でもソワレ終了後は南海もう閉まってる」「あああ!」という感想。おいおい楽しみすぎるがな。お昼をしっかり食べていきましたが……。

噂に違わずお腹のすくこと(笑)。実際に食事をつくるのです。舞台上から漂ってくるいいにおい。視覚、聴覚だけでなく嗅覚まで刺激されちゃあたまりません、客席のあちこちから生唾を呑みこむ音、お腹の鳴る音。いやあ、鳴るよね…身体は正直、抗えないよね……いやはやこれぞ演劇の強み、アゴラ劇場という閉塞感に満ちた場も効果的です。あまり広いところだとこの臨場感は出ない。

客席にはイヤフォンが設置されており、観客は男と同様店主からの指示をイヤフォンから聞きます。バターをひとかけ、揚げるように焼く、ブランデーをふりかける、隠し味に豆板醤、ピーナッツを砕いたものを入れて食感に違いを出す……さ、参考にします! といいたくなるレシピの数々。調理は時間との勝負。同時にいくつもの作業をこなさなければならない。切り方は? 道具はどれ? 盛り付けは? 段取りに四苦八苦しているところに話しかけてくる店の客。う、うるせえ、集中出来ない! 話しかけんなああああ!!! いやーウケたウケた、舞台と観客が一体になるような、ライヴ感覚の盛り上がりを見せた場面でした。てかワンオペの料理人のすごさをも思い知りましたよね……。調理、セッティング、会計。まさに職人技。それを演じる役者もすげえな! 別に料理人じゃないのに!(笑)そうよね役者ってなんでも演じるのが役者なのよね。うーんやっぱりすごいな役者って。なんてこと迄考えてしまいました。

しかしこのまま楽しく終わるわけないのがペニノです。いわれるがまま動いていた男はやがて指示がなくても料理をつくれるようになり、店主と同化していく。比喩ではなく。身体の不調を訴える店主に請われて薬を服む、飲めなかった酒を呑む。店主が呼んだデリヘルを抱き、イヤフォンからは店主の喘ぎ声。「誰が」料理をつくるのか?「誰が」いくのか? 原作は30頁弱の短編ですが、加えられたエピソードの芳醇なこと。フィールドワークの成果も反映される。再開発されていく大阪という都市、外資産業の参入。レシピ通りにつくれば街の姿は同じになる。画一化していく資本社会を一筋縄ではいかない表現でタニノクロウは描きます。酒はマッカラン1939、この時代、日本は何をしていたか。店を訪れる中国人との対峙に都市の風景を重ねて観る。

帰宅後、このツイートどおりにGoogle Mapを開いてみました。

・大阪|オーバルシアター周辺


[5]続きを読む

02月04日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る