ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『弁護人』『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』
『弁護人』@新宿武蔵野館 1
原題は『변호인(弁護人)』、英題は『The Attorney』。2013年作品。韓国の第16代目大統領、ノ・ムヒョン(盧武鉉)が弁護士時代に担当した裁判をモチーフとした作品。
「金に汚い弁護士が人権に目覚め……」てな感じのあらすじ紹介もぼちぼちあった作品ですが、実際に観てみるとそうは感じなかった。演じるソン・ガンホの表現力もあり、人物像がプリズムのよう。金の亡者という印象は受けない。アイディアにあふれ、営業能力があり、確実に仕事をこなす有能な弁護士。台詞にもあるとおり「一生懸命生きてるだけ」。高卒で司法試験に合格した努力家で、学歴差別の根強い法曹界で奮闘する。貧しい時代食い逃げをした食堂への恩をずっと返し続ける。そんな彼がひとつの裁判を引き受ける。
機動隊と対峙し、催涙弾が撃ち込まれるなかまっすぐ前を向き立ち続ける彼は、自分の未来をまだ知らない。映画本編では語られないが、その後大統領になったノ・ムヒョンは苦いかたちで人生を終える。功績が再評価されるには時間がかかる。彼が亡くなったのは2009年。本国での公開は2014年だそうなので、没後五年でこうした作品がつくられたのは早い方ではないだろうか。かつての彼がどれだけ国民を力づけ、国民に愛されたかを意味するのかもしれない。日本にはそれは伝わりづらいが、映画を通して感じとることは出来る。ちょっとした逡巡、ちょっとしたタイミングでひとは足を踏み外す。そのとき味方になってくれるひとは誰か、声をかけてくれるひとは誰か。助けは弱みになるか、それとも。韓国の現大統領のことを思う。
理不尽な裁判を見るのはとても体力を使う。スクリーンを通してすらビリビリと伝わる緊張感の凄まじさたるや……「国家保安法」がどうやら韓国語で「クッポッポなんちゃら」と発音するようで、クッポッポクッポッポと連発されるとついクスッと和んでしまったが、それも次第に頭の隅に。舞台を観ているかのような、迫力ある質疑応答が続く。しかしここぞというときにはしっかり表情を捉える、カメラの力は映画の力。専門用語も多い台詞を明瞭に、なおかつ感情をにじませて演じるソン・ガンホという役者の凄み。頼む、不正を暴いてくれ、罪をでっちあげられた青年たちを助けてくれ。思わず拳を握りしめる。
対する警監を演じるクァク・ドウォンも素晴らしかった。ま〜にくたらしいこと! しれっと捏造、しれっと偽証、しれっと揉み消し! カー!!! しかしここで思い出す、釜山での仕事を任命されたときの彼の複雑な表情を。ひとはこうして変わるのだと背筋も凍る思い。それを見事に演じたドウォンさんに感服する思い。
それにしてもあの状況で真実を証言した軍医の勇気には頭が下がる。権力に屈しない、人間の良心を信じるエピソード。それだけに彼のその後が気になる。せつない。彼のことも、主人公のことも。人間を信じるという信念で制作された作品だとも感じた。そして作り手たちは、映画の力というものも信じているのだ。
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・ガンホさんと、旧友の新聞記者役イ・ソンミンがけんかして、ぶっきらぼうに元サヤに収まるとこもよかったですねー。謝んないけど服かしてくれて、協力してさ……同じ劇団出身だそうです
・オ・ダルスがまた妖精っぷりを発揮していた。どんなに困難な場でも笑いを忘れず楽観的なキャラクターを演じさせたら右にでる者はいませんね
・キム・ヨンエ、素敵〜。こういうおばーちゃんになりたい〜
・それにしてもガンホさん、プロポーションがよい。脚長いわ…スーツが似合うわ……と深刻なシーンでときどき目を瞠ってましたすみません
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新宿武蔵野館がリニューアルオープン、そのお祝い? なんとこの日はガンホさんが十年ぶりに来日し、舞台挨拶が行われたのでした。『弁護人』の公開は武蔵野館の姉妹館であるシネマカリテなのですが、舞台挨拶は武蔵野館で開催。発表されたのは公開週の月曜日、チケット発売はその翌日。直前すぎるわ! しかも最初は情報が錯綜してカリテでの舞台挨拶なの? とかtwitterのTLが阿鼻叫喚になってました。カリテだったらチケットとれなかったよきっと……。
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11月12日(土)
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