ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『聖地X』『国際市場で逢いましょう』
イキウメ『聖地X』@シアタートラム

プロトタイプ(と言っても、当時ちゃんと本公演として上演された作品ですが)の『プランクトンの踊り場』は未見です。いーやー面白かった。

オカルト的な事象を理詰めで解説していく、しかしどうしても解明出来ない謎は必ず残す。その余白をやはり理屈だけでは証明し得ない衝動や感動へと落とし込む、と言う手法に磨きがかかりまくっている。

理詰めで解説していくため、「またまた〜」「このひと頭おかしいのかな?」と言うところから一歩踏み込むことが出来る。理解出来ない事象に対してツッコミを入れる人物を配置することで、「信じられない。有り得ない」が「自分が信じようとしていなかったのだ。では、信じてみたら?」と言う変換のガイドになる。過去の作品に出てきた言葉でもあり、前川さんが言っていたこともであるが、「人類が誕生してからの長い歴史を考えると、今生きている人間よりも、過去に死んでいる人間の人数の方が全然多い」と言う当たり前の事実は、そりゃー生きてる人間の知識を結集しても解明出来ないことがあるのは当然だよなあ、と納得させられる。

「納得」は「信じてみる」ことでもあり、そして今回のストーリーにも出てきたように、「信じる」ことは「祈り」に繋がる。それは奇跡を呼ぶこともある。

登場人物たちのバランスの取り方も巧い。散々兄とAmazon(小道具の段ボール箱はAmazanになっていたが・笑)に罵詈雑言を浴びせた妹が、その兄のパソコンでAmazonを使って製菓道具を購入する。高等遊民の兄は、帰郷を知られた同級生に対して気まずそうだ。その同級生はクライアントに誠実で、自分の仕事を楽しんでいる。歯の浮くような夫の言葉、おいおいこれどうなの? 笑うとこ? とギリギリ迄引っ張っての「消えろ」、爆笑。理路整然、軽妙洒脱なやりとりは以前からの特色だけど、コメディとしてのやりとりがこんなに面白かったかこの劇団…と瞠目する場面もしばしば。安井順平が劇団にもたらした効果と、劇団員全員の実力がグイグイあがっていることを強く感じる。間、テンポ、リズムのよさ。

イキウメならではの、ともすれば説明としての処理になりがちな仮説→実験→検証の場面展開。これらを笑いとともに鮮やかに見せる技がますます冴える。料理人とオーナーのすれ違いを回想のちょっとした会話から眼前に再現する。シュークリームとペプシが出現する(笑)実験台として使われる人物の下準備にも唸らされた。常に俯瞰で構成されているなあと感嘆。兄妹の絶妙なコンビネーション、ケンカの抜け感も見事。各々の場所を小道具の位置がえと壁のスライドで見せた美術(毎度の土岐研一!)も、現在と過去、オリジナルとコピーを錯覚させ、目に見えるものがいかに曖昧なものかを実感させる。

劇団作品を続けて観ていると、と言う点では、今回の兄は『地下室の手記』の彼の違う人生かもと思える楽しさもあった。自立出来ていないように見える子供たちは、(前川作品に重要なモチーフである)地方都市にある実家と財産を有意義に使う。この兄にしても、不誠実な誠実を併せ持つ夫にしても、素直な心を持つが故に故障してしまう料理人にしても、当て書きか? なんて思わされてしまう(浜田さんごめん・笑)。女性の強さもね。今回いちばんグッときたのは盛さん演じる不動産屋さんでした。

後味はよいけれど、そこはかとない怖さ、割り切れなさも余韻として残る。「三人目」は生きている人間か? 彼はあの後どうなったのだろう。

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・余談。もーどこで何が起こるか判らない! と気を張って観ていたもんで、終盤兄がトイレから出てきたとき「これも増えたやつ?!」としばらく疑っていた(笑)て言うかトイレで増えるって判ってるのにここで用を足す兄の図太さに感心した…冴えてるけどやっぱアホの子の片鱗が……

・赤堀雅秋×前川知大インタヴュー『散歩する侵略者』(2006年)

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05月17日(日)
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