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by kai
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■『星から来た男』
『星から来た男』劇場公開版(DVD)

引き続きファン・ジョンミン特集。原題は『슈퍼맨이었던 사나이(スーパーマンだった男)』、英題は『A Man Who Was A Superman』。2008年の作品。「劇場公開版」とあるので、ディレクターズカット等のヴァージョンが他にも出回っているのかな。そちらも発見出来れば観てみたいです。
(追記:調べてみたところ日本では『韓流シネマ・フェスティバル 2008』で上映された後、一般公開はなかったようです)

歪なところも多いけどハマるひとにはすごくハマる、すっごく愛される作品だと思う。観てから数日経った今も、ちょっと油断するとこの作品のことを思い出し、考え込んでぼーっとしちゃう繰り返しです。

原題は『スーパーマンだった男』。ドキュメンタリー番組の制作会社に勤める主人公。ちょっとした捏造は日常茶飯事、視聴率を重視し感動を煽る番組作りに辟易している彼女は、ある日老人の荷物を持ってあげたり、露出狂を撃退したりと街でちいさな善行を繰り返す自称“スーパーマン”と出会う。面白半分で「完全にイカれてる」スーパーマンのドキュメンタリーを撮ることにした彼女は、彼の頭の中に何かが埋まっていることを知る……。

スーパーマンの過去とそれにまつわるエピソードがとても多く、連続ドラマ用に書いたものを100分程の劇場用にしたのでは?と思ってしまうような詰め込み具合。構成も混乱している。しかしストーリーのテーマの大きさ、役者の説得力ある演技がそれら歪な点を補って余りある。過去は変えられない。未来は変えられる。ひとが地球を救うことは出来ない。しかし、人ひとりひとりを変えることは出来る。

年寄りくさいことを言いますが、自分がこどもの頃に観た、80年代によくあったタイプの邦画って今ないなあ、ああいうのもう観られないのかなあと思っていたものが、2008年の韓国にあった!って言う。ここにいたのか(「ごん、おまえだったのか」の体で)…!もう!!愛せる!!!90年代には90年代の、00年代には00年代の良さがあると思いますが、この作品に漂う優しい空気は80年代だなあ。CGによる画作りが第一ではない、あるいは画面の粗探しをしようと言う意地悪な気持ちが起こらない、ヒューマンドラマとしてのSF。映画『スーパーマン』の登場をリアルタイムで知っている、共通の記憶を持つ世代の思い入れも感じられます。調べてみたら監督・(共同)脚本のチョン・ユンチョルは同い歳だった。

twitterのフォロワーさんが一色伸幸が書きそうな話だと仰っていたのですが、これ、80年代に彼の作品を観ていたひとにはピンと来るのではないでしょうか。個人的にはそれに加え、鴻上尚史作品を連想しました。狂った方が楽だと言うけれど、それは当人にしか判らない。狂気の世界でそのひとは正気だったときより苦しんでいるかも知れない……。心を閉ざした人々への優しい視線。スーパーマンのハイテンション演技にふと筧さんを連想したことや、“空飛ぶクジラ”が出てきたことも、そう感じた要因だと思います。この場面の祝祭感溢れる演出にも第三舞台を思い出した。

イ・ヒョンソクの過去が明かされるシーンで、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』の「ハミング・コーラス」が流れる。蝶々夫人が帰らぬピンカートンを寝ずに待つ場面の曲だ。ヒョンソクは夢=狂気のなかではなく、目醒めた状態でスーパーマンになろうとしていたのだ。彼は人助けを繰り返す。何度繰り返しても、何度他人を助けても、家族は戻ってこない。あのとき発作が起こらなければ?クリプトナイトを取り出すことは出来ていれば、スーパーマンに変身出来ていれば?傍観者のなかに幾人か、祈るように手を組んでいるひとがいる。彼らはクリスチャンだろうか。祈るだけではひとは助けられない。


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04月05日(土)
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