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by kai
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■小林十市 ダンスアクト『Hamlet Parade 〜Last Dance〜』
小林十市 ダンスアクト『Hamlet Parade 〜Last Dance〜』@Shinjuku BLAZE

昨年末DCPRGを観た会場で十市さんのダンス公演と観ると言う、なかなか貴重な…「(不夜城と言われているが)リーマンショック以降眠るようになった(笑)」(菊地成孔談)とは言え歌舞伎町、普段はヴィジュアル系バンドが使うことの多いハコです。スタンディング使いでしか知らなかったのでどうやるのかな、と思っていたら、普通にパイプ椅子ビッシリ並べてありました。場所によってはかなり視界が違ったかも知れない。自分は4列目センターでした。座席段差がないため、前の席のひとの頭に隠れてステップは見辛かったのですが、それにしたってむちゃ近い。バレエをこんなに近くで観たの初めてです。すごい迫力。踏み切りや着地音だけでなく息遣いもハッキリ聴こえるし、汗とか飛んできそうなくらい。高いジャンプのピルエットを繰り返すところは、遠心力でステージから飛び出してきてしまうのではと思う程でした。ひとりしかいないステージが、狭く見えた。

さて、“ハムレットパレード”とは何ぞや。十市さんのインタヴューによると、青井陽治さんのワークショップで扱われていたマテリアルだそうです。シェイクスピア『ハムレット』から、ハムレットの独白(四大独白+二箇所の独白)とオフィーリアの独白、その前後の状況説明を抜粋構成したテキストを通しで演じること。その“ハムレットパレード”にダンスの要素を組み込み、作品として成立させたものが今回の公演。演出と振付は十市さん本人が手掛けており、ハムレットの翻案ものとしても非常に面白いものでした。ハムレット、オフィーリア、クローディアス、ガートルード、ポローニアスを十市さんひとりが演じる。ステージ後方にあるスクリーンに、ハムレットの独白に応じた登場人物が映し出される。この辺り噺家の血が騒ぐのか(自らアナウンスした開演前後の諸注意、ご挨拶もユーモア溢れるもので面白かった)、現れるデンマークのひとびとは茶目っ気たっぷり。しばしここはどう反応していいのか…?って空気が流れたけど、三つ編みウィッグのガートルードやカトチャンペみたいな扮装のポローニアスが出てくると、程なく笑いが解禁されました。ガートルードがちょっと珍しい解釈だった。あの三つ編みといい、仕草といい、とても幼い。その幼さが、先王の死後すぐにその弟の妻となる浅薄さを暗示しているようにも見えました。ブルネットのショートボブウィッグで、妖婉さすら香らせたオフィーリアの美貌とは真逆です。

そう、オフィーリアの解釈も興味深かった。実際にステージに立ち、ダンスと独白があるのはハムレットとオフィーリアのみ。他の人物は映像の外には出てきません。ハムレットからオフィーリアへの変換は、ウィッグと和装の羽織のみ。しかしこれだけでガラリとダンサーの居住まいが変わります。利発そうな、美しい切れ長の目元、低温の微笑。彼女の狂乱は、自覚のもとの結果だったのではないかとすら思えるものでした。激情的に語る役者さんや演出が多い台詞「気高いお心が壊れてしまった!」を、溜息をつくかのような穏やかさで語ったこともそう感じた要因。ハムレットと自分の行く末を悟っているかのようです。そしてハムレットを思い続けるせつない仕草、表情。悲しい初恋。それらを内包したダンスに涙。ハムレットよりずっと大人に見えたオフィーリア、素晴らしかったです。ちなみにこのオフィーリアの扮装、ジョナサン・ケント演出の日本人キャストによる『ハムレット』を思い出しました。このときオフィーリアを演じた中村芝のぶさんには、こけしや日本人形をモチーフとした衣裳やメイクが施されていました。


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03月29日(金)
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