ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『配信犯罪』、ケムリ研究室 no.3『眠くなっちゃった』
神が不在の街で生きる娼婦は、理由があったりなかったりで盗みを働いたり、ひとを殺したりする。理由がなくても大家は彼女をかわいがり、同時に蛇蝎のごとく忌み嫌う。監視員は自身に危機が及ぶと理解し乍らも恋に落ちる。緒川さんの魅力はそうして描かれる。聖人でも俗人でもなく、天使でも悪魔でもなく、それが人間なのだと示す。人間に魅入られる北村さんも人間くさい、魅力的な人物像だった。

野間口さんと近藤さんは、複数の役柄を通して劇中世界のMCのような役割を果たす。ふたりの落ちついた、静かでいてよく通る声が効いている。犬山さんと山内さんがシリアスなシーンを笑いに展開してくれる。ともすれば気が滅入る解釈に偏ってしまいそうなところ、随分助けられた。ケラさんが描く架空の国の文化や、通貨、単位、いきもののネーミングがとても好きなのだが、それも現実を虚構として観る助けになった。今回はミツクビガメにズキュン。み、見たいミツクビガメ! 名前がもうむちゃかわいい! 鈴木光介さんの音楽も素敵でした。篠井さんの歌声がずっと耳に残っている。

プロジェクションマッピングという言葉が一般的になるよりもずっと以前から、ケラさんは映像とムービングによるセノグラフィーに意識的だった。映像の上田大樹さん、振付の小野寺修二さんと組むようになってから、それはますます磨かれていった。世田谷パブリックシアターというハコにおいて、それらが見事な形で結実した。スケジューリングはたいへんだろうけど、キャストを誰ひとり変えることなくいつか再演してほしい。そのとき世界はどうなっているだろう。

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・ケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』東京公演10月7日(土)18時公演より開幕及び9日(月祝)18時追加公演決定のお知らせ(10月5日更新)┃【公式】株式会社キューブ オフィシャルサイト
no.1『ベイジルタウンの女神』、no.2『砂の女』ときてケムリ研究室も3作目。コロナ禍のなかで旗揚げ公演を行い、その後も茨の道を進む。ケラさんは「どの作品でも皆たいへんだ」といいそうだけど、今回のアクシデントは想定外過ぎた。劇場設備のトラブルで、初日からの7公演が中止になってしまった。急遽追加公演をねじ込んだとはいえ、半分近く休演になるなんてな…なんてことだよ……どんなに悔しかっただろう。怪我人等出なかったことは本当によかった

・キャンセルのお知らせや払い戻しの手続きに関わる制作費は勿論だけど、ケラさんのツイートを見ていてキャストのお弁当とか、そういうものも7公演分が損失してしまったんだよなあと思う。なんとか補填出来るといいが……

・お茶でもしようとちょっと早めに三茶へ行き、キャロットタワー周辺を散歩していたら、マチネ終わりの観客がどどっと出てくる。ソワレの開場迄1時間あるかないか。この時間で客席を整えるスタッフはたいへんだ。ケラさんの舞台は大概そうなんだが。演者さんもほぼ劇場にカンヅメなのではないだろうか。残りの公演、全て無事に終わりますように

10月14日(土)
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