ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『あいちトリエンナーレ 2016』(豊橋)、維新派『アマハラ』
フィリピン、ベンゲットの道路工事、台湾のダム建設、サイパンの東京。山口百次郎と松本金十郎、主にふたりの漂流が物語られる。異国に渡り、一旗揚げ、街を作り、戦争に巻き込まれ全てを破壊される。爆撃によりたった七時間で消えた街は、彼らが数十年かけてつくりあげた街だった。明治から太平洋戦争終結、その後の引き揚げ。夢のような数十年だが、その夢は苦難の夢でもある。「天草出身の松本さん」は先祖だろうか? 実在の人物だということだが、松本さんの父、そして兄のことを思い出す。それではこのひとは。そしてまだ生まれていない、物語の数年後生まれる松本雄吉という人物の旅路は。息遣いから始まり、おかえりで終わる。図らずも松本さんへの別れを意識する。『台湾の〜』では中盤に置かれていた曲が最後になったとのこと。松本さんへのメッセージのようにも、異国で働き、家族をもった移民とその子孫へのメッセージのようにもうつる。「そこはどこですか?」「おーーーい」「おーーーーーい」。
土地の空気や美術の壮大さに圧倒されることは常だが、改めて観ると、演者の身体表現と鍛錬の素晴らしさが印象に残る。これだけ群唱が揃うところ、他で観たことがない。それは言葉が謡になっているからかもしれない。リズムだけでなく、ピッチも合わせる。見事、思わず身震い。道路工事のシーンで、巨大な装置をするすると登り、滑るように降りてくる。宙吊りの場面はユーモラスに、しかし台詞は明瞭。公演によってはワイアレスマイクのコントロールが難しく、声量にも制限があったそうだが、今回そのトラブルは全く感じられず。一箇所だけ、演者のひとりが台詞を忘れたのかしばらく間が空くことがあり緊張が走るが、そのリカバリもリズミカルで素晴らしかった。
夕暮れに鳥が飛ぶ、暗闇の向こうに飛行機が飛ぶ。遠くから電車の走る音、しかしステージの奥に拡がる草原は海で、観客席は船上だ。維新派は街をつくる。訪れる観客は旅人だ。街は跡形もなく消え、再び旅人が訪れたときには記憶だけがたより。その記憶を消したくなくて、なんどでも思い出す。
さよなら松本さん、有難う。
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終演、退場時客席上方へあがって見えた景色。草原が金色に光っている、こうなってたのか! 最前列からは見えなかったわ…でもいいんだ、最後に目に出来たから。正面は生駒山だそうです。見えませんね。綺麗に撮れてるのはプロの方が撮影したもので〜(さがしてください)。
再び屋台村。時間に追われつつ最後の堪能。あまりの寒さに控えていた飲みものを所望。ホットコーヒーに砂糖入れる程ですよこの私が……。そして餃子。「ちょうど焼きたてですよ!」と明るい声のおねえさん有難う、皮パリパリのサクサク、餡はジューシーでめっちゃ旨かったです〜。終演後見ると山口商店の意味がわかる。あれは百次郎の店だったんだな……偶然だろうか? その謎が明かされることももうない。「天草出身の松本さん」ともども、虚構と現実の境目が見えなくなっていく。
タイムアップ〜、さようならー! 大和西大寺〜京都間には伏見があるので平尾さあんと思ったりもしていた。今年は本当に訃報が多い。新幹線改札を抜けると出発迄10分切ってる、いやー慌ただしい旅でした。頭痛が酷く車酔いしし(こだま、ひかりだと酔わないけどのぞみだと酔う三半規管)死んだように眠り、品川辺りで目覚めると平さんのニュース。頭痛は治まらず悪夢を見ているような感覚。まさか旅の帰り道で訃報を聞くことになるとは。あれが最後の舞台になるなんて出来すぎですよ……半ば呆然としたまま解散、帰路。おつかれさまでした。
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・主宰しのび「維新派」が最終公演 奈良・平城宮跡、14日から - 共同通信 47NEWS
・維新派 アマハラ|演劇◎定点カメラ
毎回お世話になっておりますまねきねこさんのページ。今回はデータだけでなく画像もたくさん、テキストにもジーン
・維新派「アマハラ」@平城宮跡|'A'
“舞台は「今ここ」でしか見られないものなのに、彼らの舞台は「今ここ」にはない。”
“かつてあった時間、かつてあった場所、まだない時間、まだない場所に向けて彼らは呼びかける。”
素晴らしいテキスト
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10月23日(日)
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