ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『杮葺落四月大歌舞伎』初日
つーか勘九郎くんの踊りがめっちゃよくてさ…いやもうこのひとの踊りはほんと格好ええなー。働き盛りの若々しさ、躍動感溢れる、キレのある美しさ。これは今しか観られない。そして歳を重ねての風雅な踊りも、そのときにしか観られない。瑞々しさと円熟と、このひとはいつでもそのときにしか見られない踊りを見せてくれるのではないでしょうか。
はー泣いたわー…そのあとがお弁当の時間っていうね……もう何がなんだか。泣き腫らした目で食堂へ向かうお嬢さんやおばさま方をぼんやり見やりつつしっかり食べましたけども。お手洗いに行くと動線がシアターオーブみたいになっており(一通で入口側に手洗い場がないので知らずに戻ってきたひとが困惑する)、並んでいた方と「初めてですからねえ、まだ慣れませんわねえ」などと話す。そうそうこういうとこも独特な高揚感があって、見知らぬひととフツーに笑顔で言葉を交わす機会が結構あって面白かった。席に戻るとき通路が狭くて「椅子は大きくなったって言うけど、こういうとこは変わってませんよねえ」「一階は広々してるのかしら」なんて話したり(笑)。
第一部の最後を飾るのは『一谷嫩軍記 熊谷陣屋(くまがいじんや)』。観るのは三年前の『御名残四月大歌舞伎』以来です。今読みなおして気付く、前回はこれのあとにごはんだったのね…複雑な気分ですよね……てかごはんのことばかり書いてる自分もどうかと思いますね……。
熊谷直実は吉右衛門さんでしか観たことがない。吉右衛門さん、陰のある役と言うか激しく深い怒りや悲しみを押し殺している役柄で観ることが多くて、実人生と関係ない筈なのにつらくなるわ……。今回の相模は玉三郎さん、藤の方は菊之助さん。玉三郎さんを観るのも随分久し振り…新橋演舞場には出演されませんからねえ。七緒八くんを見たばかりのこともあり、未来を断たれたこどもとその親の気持ちに思いを馳せ、胸が塞ぎました。同時に、こどもたちの未来が明るいものであることを祈りました。とか言いつつ、義経役の仁左衛門さんが格好よくてぽわーとしてました。
そしてこれ、浄瑠璃が格好いいんだ!竹本葵太夫さん。三味線の鶴澤寿治郎さんとの阿吽の呼吸から丁々発止、時間を追う毎に熱を帯び、顔が真っ赤。ちょっとの間に素早く水筒で喉を潤しているのが見えた。そして大詰め、幕が滑り舞台が隠される。ひとり花道に残る直実。そこへするりと寿治郎さんが現れる。世のしがらみを振り切り、悲しみを押し殺して旅立つ吉右衛門さんと、立奏台に片足をかけ三味線を奏でるその姿の粋なこと。
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「観続けてきてよかった!」と私が言うのはおこがましいが、「観に来てよかった!歌舞伎が好きでよかった!」は、随分早くやってきた。磨き抜かれた芸を観ることは勿論だが、伝統芸能と言うものは、それだけではない要素がある。芸が代々、生身の人間に伝えられていくこと。その「芸を受け継ぐひと」の存在と成長を、リアルタイムで目撃出来ること。この場に居合わせられたことの幸運と、芝居を楽しむことが出来る幸福を、忘れないでおこう。
04月02日(火)
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