ID:43818
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by kai
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■『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
そして娘も“赦す”側ではなく“赦される”側。修道女になりたい希望を何度伝えても、教会は許可を出さない。成程確かに彼女は「貞潔、清貧、従順」のどれも遂行していないように見える。父から贈られた“世俗的な”ロザリオを身につける。葡萄酒以外はとことわりつつビール3杯呑んじゃう(シーンが進むと空のグラスが増えてるのが最高)。父から贈られたこれまた世俗的なコーンパイプで喫煙する。それも全て祈れば“赦される”。メイクも世俗的=魅力的でしたね、華やかなフェイスカラー、真っ赤なルージュ。これがまたかわいくてなあ。多分彼女も天界の入り口で差し戻しだな(笑)。演じるミア・スレアプレトンがまためちゃめちゃキュート。仏頂面であればある程かわいい。実は予告編観たとき彼女のことをスカーレット・ヨハンソンだと思い込んでいた。仏頂面が絵になる女性といえばスカジョだと思っている節があるんですが、ミアにはその系譜に連なる大物っぷりを感じました。

それにしてもその“世俗的な”あれこれを手掛けたのが超一流のブランドばかりというのもなかなかな皮肉。邸宅に飾られている美術品も全て実物。そのなかでも特に気になったのは、実は輸血道具なのだった。あれはどうなん、本物なん? 1950年代当時はあんな手動でシュカシュカやってたん? てかあんなスピードでシュカシュカやってたら具合悪くならん? あとオモチャみたいな嘘発見器も可愛かったな。ホントと嘘が入り乱れるアンダーソンワールド。

獰猛、ぶきっちょ、エレガントな父親。そんな彼の、「料理がうまく、皿洗いもうまい」という伏線が回収されるエピローグ。ザ・ザ・コルダが失ったものと得たものが描かれる、夢のようなラストシーン。父子は一から出直しだ、しかし父の罪が消えた訳ではない。彼はまた殺されかけるのだろうか、或いは殺されてしまうのだろうか? そんな不安を抱えつつ、それでも厨房でトランプに興じる父と娘のぶきっちょな交流に笑顔になってしまう。父子の交流を捉え乍ら、カメラは世界から離れていく。エンドロールが流れる暗闇に鳴り響くのはストラヴィンスキーの「火の鳥」。なんて粋な。何度でも甦る不死鳥は、こうして父子を祝福する。

あ、当て書き? 当て書きなの? プライヴェートをほぼ明かさないベニーのこれが? いやーそういう意味でもめちゃめちゃ楽しみました。ベニーがずっと手負いってところもいいわ〜。アンダーソン監督、ファニーでチャーミングなベニーを有難う! 『フレンチ〜』ではベニーとエイドリアン・ブロディの共演が観られて感無量だったのですが、今回はベニーとベネディクト・カンバーバッチ(あのヘアメイク!)の取っ組み合いが観られて感無量でした。おじさん同士の取っ組み合い、最高だね! アンダーソン監督有難う(何度でもいう)!

10月04日(土)
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