ID:43818
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by kai
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■『破墓/パミョ』
風水、シャーマンという土着的な風習を重んじるメンバーのなかに、ひとりクリスチャンである葬儀師がいる。繋がっていく歴史の射程は長い。度重なる侵略の歴史だ。“鬼”の実態はひとつではない。日韓併合の時代から朝鮮出兵、倭寇(おそらく。台詞に「500年前」って出てきて、そんな前? な、なんだっけ? と調べた…)に迄ときは遡る。本当に長い時間だ。鬼と対峙した巫堂が、「ここは私たちの土地だ、戦争は終わった」と告げるシーンには、“鬼”を倒すというより元の場所に帰るのだと諭すような切実な叫びがあった。

日韓の関係だけでなく、韓国内の問題にも眼差しが向けられていることも興味深かった。富豪となりアメリカで暮らしていてもなお、家父長制に縛られ続ける依頼者の家庭。それを解放すべく改葬を引き受ける女性。世代や性別を問わず能力を認め、敬意を払う年長者。巫堂と弟子、妊婦と中学生(くらいかな)の巫堂たちの信頼関係にも胸が熱くなった。彼らは血族を問わず、家族のような間柄になる。

凄絶な闘いの端々にユーモアが散りばめられているところにも、監督の思いが反映されているように感じた。「鶏殺したくないなー」「普段はフライドチキン食べてるくせに」とか、「あ、娘の結婚式どうしよう」とか。全身にお経書いた姿で検問突破するとこもウケた、不審すぎるだろう(笑)。惨事は全部クマのせい、秘密を知っているのはこの4人だけ。という終わり方もよかったな。いやーこれ医者や警察にどう説明すんのよと現実的な心配をしていたので、そんな解決策があったか! と思わずニッコリしちゃった。クマは気の毒だけどな(笑)。

やるならやらねばの風水師ミンシク先生(貫禄なのにかわいい!)、穏健なオプティミスト葬儀師ユ・へジン(愛嬌ある言動と誠実な仕事ぶりのギャップ!)、ちょーかっこいい巫堂キム・ゴウン(祈祷シーンのトランスっぷり!)とちょーかっこかわいい弟子イ・ドヒョン(声もいい。台詞の7割くらいがお経と日本語だったかと……「クソババア」の発音めちゃめちゃよかった・笑)。揃って愛すべきキャラクター。ドヒョンさんはこれが映画デビュー作だそうで驚いた。ドラマでは活躍していたそうだが……現在兵役中だそうで、しばらく新作を観られそうにないのが残念。今後映画でも観られる機会が増えそうってか増えてほしい。

音響も抜群。あらゆるところで鳴っている音の配置が効果的で、鶏声や心電図モニター等、小さな音が的確に耳に飛び込んでくる。スリラー映画にありがちな、大きな音で驚かせるハッタリがないところにも好感。観られる方は是非劇場で。

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・破墓 パミョ┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。そうそうクリスチャンが花札やってるシーンあった。『渇き』ではクリスチャンが集まって麻雀やってましたね(笑)

・パミョ┃ナムウィキ
解説いろいろ。墓ベンジャーズ4人の名前は朝鮮独立運動の闘士からとられているとのこと。ヌレオンナは本編ではちゃんと見えなくて「蛇?」くらいに思ってたので、画像を見てヒィッとなった

・ 「シュリ」「オールド・ボーイ」チェ・ミンシクが新作『破墓/パミョ』で来日!彼が日本でいつも楽しみにしていることは?┃Kstyle
誰かのために、家族のために、幸せと無事を祈る切実な心。韓国の土俗信仰は、本来は、そういうものだと考えています
これはいいインタヴュー! ミンシク先生の演技に対する向き合い方から好きな食べもの、日本での思い出(『シュリ』のとき温泉連れてってくれた「日本の配給会社の社長さん」って、 シネカノンの李鳳宇さんだよね?)、そして映画館で映画を観ることについて。信仰についての話も興味深い。食べてた土がお菓子で出来ているとわかって安心もした(笑)

・「私たち俳優はインテリア業者」…韓国の名優チェ・ミンシクが語る新作「破墓/パミョ」と映画に臨む思い、そして大杉漣の一言┃読売新聞
日本のみなさんでしたら、きっと映画として愛してくださるでしょうし、『これは映画だ、これは一つの題材なんだ』というふうに思って見てくださると信じています

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10月19日(土)
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