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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■小林建樹『25th anniversary』
小林さんのライヴが大好きなのは、リカバリの過程にすら聴きごたえがあることなんです。心身ともに絶好調、は理想ですが、人間いつでもそうであるなんて無理な話。では、そうじゃないときどうするのか。小林さんはライヴ当日にピークパフォーマンスを持っていくため、日々のコンディショニングに非常に気を遣っているように感じます。セットリストをはじめライヴの構成、進行をしっかり決め、当日何を話すかきちんと決めている(以前MCの練習もするといっていた)。しかしライヴはいきものなので、様々な要因で自分のペースを乱されることがある。そのときこの全身音楽家は、どう対応するか。
この日はギターパートにそれが顕著でした。1曲目、何が原因かは判りませんが、ギターのストロークと歌のタイミングにちょっとした乱れが生まれた。それでも演奏をやめず、飛行機が強風に煽られ乍ら着陸するように最後迄演奏。素人目にはあらら? くらいな印象でしたが、その余波が2曲目にも続きました。始まったばかりなのに顔に汗が吹き出し、涙のように頬を流れていく。しばらくして落ち着いたか、その後は順調でしたが、最初のMCで「いやー、すごい練習したんですけど。自分ではすごく練習してるつもりなんですけどまだまだなのかな」などといっていた。以前「緊張しいなんです」といっていたし、内心とても焦っていたのかもしれない。
でも、小林さんの魅力はこの揺れやズレにこそあると思っているのです。ステージ上で四苦八苦する様子を見たい訳じゃないですよ! 演者自身のチューニングやBPMの変化を目の当たりに出来る。便宜上ミスタッチと書きますが、そのミスがミスにならないように演奏をリアルタイムで変化させていく。それが面白いし、ライヴの醍醐味でもあります。そうそう、この日はギターチューニングの話も興味深かった。Gといってた気がするので3弦かな? チューニングを低めにしている、というか緩めているのだそう。何故なら切れやすいからなんですって。それに合わせて声も微分音で鳴らしているように感じる。音符がジャストで移行しない。この日のMCで話していた「ギターのミュート」もそうですが、所謂“音符で表せないもの”を実演することの凄みを感じる。オンドマルトノの話もされてましたが、カッティングやスタッカートによって生まれるパーカッシヴな演奏と歌には、“ジャスト”ではない音楽の魅力が詰まっている。
そしてセットリストが決まっていても、曲間のブリッジは音源にはないもので毎回変わる。スキャットもそう。歌詞、言葉がないパートに発せられるその声は、既存の楽曲からみるみると新しい音楽が生まれてくるさまを見せてくれる。ひとつの曲には無限の可能性がある。それを気付かせてくれる。
アーティストの健康に正解なんてないのかもしれない。身体が頑丈であることと、メンタルが安定していることが全てではない。気持ちよく演奏出来ることは勿論ですが、環境に応じて違うものをどうにでも鳴らせるという意味では、近年の小林さんのライヴはヘルシーな状態のように思えます。いやいやそれでも心身ともにお気を付けて! 元気でいてください!
といえば、前回の感想でタバコやめてたのね、「禁園」を唄ってたひとが〜なんて書きましたが、この日「禁園」やったんですよ。おお〜煙草やめてても演奏は聴けた、うれしい。やめて7年くらいになるそうです。「全然平気。呑み屋とかで傍で吸われても平気」(禁断症状も出ないし吸いたくもならない)とのこと。凝視の曲が俯瞰の曲になったといえばいいだろうか。人生という旅とともにある音楽も、また旅をしている。
当時の環境が「ミモザ」を生み、それが普遍なものとなり現在に響く。つらい出来事が暴力的といっていい程に次々と可視化される今、この歌は世界の悲しみと向き合う術を教えてくれる。社会への不安が込められたような近作「魔術師」も、時代の変化とともに違う顔を見せてくれるのだろう。それを聴いていきたい。
(セットリストはツアー終了後転載予定)
(20240603追記)
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Setlist(オフィシャルサイトより)
01. ふるえて眠れ(『Gift』)
02. 6月のマーチ(『Window』)
03. Sound Glider(『Golden Best』)
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05月25日(土)
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