ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 結成20周年記念巡回公演『香水』
そうはいっても楽団のコンディションはよいのです。緊張と弛緩と、寄らば斬られるような恐怖と、ハグされるような安楽と。は〜素敵な旋律、とか聴いてると林さんがフリーダムなリフを弾いている(ソロじゃないところなんだなこれが)し、艶やかな歌声〜とか聴いてると大儀見さんと田中さんと鳥越さんがニコニコしてアタックずらしたリズムをブチ込んでくるし、そうリズムがより複雑になってて、というか起点が動くし揺れるし。半拍後ろにいってるなと思ってるとジャストにもなるし。目を瞠るし。凝視してると菊地さん、クラーベは右打ちでカウベルは左打ちだし。なんで? と思っているとどこかから水泡のような音が聴こえてくる。堀米さんと林さんとで何をどうやったらこんな音が(なんかコポコポいうのよ、打楽器じゃなくて弦を打つ音なのよ。林さんの場合プリペアド演奏じゃないのにそう聴こえるところがあるのよ。なんでよ)……と思う間もなく早川さんのソロに沁み入る。頭もパンパン。そして思えばこんなオケでよく旋律とって唄えるよなあ菊地さん。耳もヤられてるというのに。

と、ゆったり座っていても全く油断出来ない演奏なのでした。シッティングだとアーッ、アーッ、今何やった!? って考え通しでグッタリします(笑顔で)。「Killing Time」の田中、大儀見、菊地のブリッジなんて、DCPRG「Circle/Line〜Hard Core Peace」のブリッジくらい長くなっている。「踊りたいでしょ?」と菊地さん。そうですね……スタンディングでは踊り倒すというフィジカルとなになに何やってんの? と考えるサイコロジカルな忙しさがぐちゃぐちゃになるカオスが爽快ですよね。という訳でスタンディングのライヴが決まってうれしい。両方あるのがよい。

演奏とは裏腹に(演奏に集中するあまり?)バグった言動も、ハラハラしつつ楽しく拝聴しました。楽団結成時から不動のメンバーがふたりいる、元老院の〜という話からジョージ・クルーニーに似てると堀米さんを紹介したのだが、それは大儀見さんではないのか。あと桃太郎の話な……ワタシの周りには天才が集まってくる、ワタシの才能は天才が寄ってくること。みたいなことをいってたんだが、その喩えでいいのか。自分が桃太郎な訳でしょ…そういえば昨年のeastern youthでは救世主としての桃太郎(村岡さん)の話をしていたなあ……とひとりでニヤニヤしていました。

とはいうものの痛切な瞬間もやはりあり。一昨年の『菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、京都KBSホール公演〜ジャン・リュック・ゴダールに捧ぐ〜』に浅田彰氏が来場していたこと、そのとき終演後の楽屋で「来年はアルバムつくります!」と宣言している映像が残っていた(誰かがスマホで撮っていた)にも関わらず、昨年は体調を崩しスケジュールが狂いまくったこと、でも振り返ってみれば今年は楽団結成20周年、アニバーサリーの年に新譜をリリース出来ることになったのは結果オーライだったのではないか、という話をしたのだが、「本当にくたばりかけていたので、」といい、しばし絶句しておられた。口元を手で隠し、客席から顔をそらした。和やかな笑い声も上がっていた場内が、しん、と静まった。

彼のことはオレにワタシにしかわからないことがある。だから愛しい。だから憎い。そんな感情をあの場にいた全員が抱いたようにすら思う。彼はそんな音楽を聴かせてくれる。コレは他では得られない。

それが何かというと、抽象的ではあるが、死なのではないだろうか。PTAのステージには、いつも死が横たわっている。照明が素晴らしかった。ここ、という瞬間、ゆったりと立ち上がる光。その色の変化。PTAの照明は、今どなたが手掛けているのだろう、今回は芸劇の方だったのかどうか……。「我々は生まれ落ちた瞬間から、小柳の創作した光に、文字通り、護衛されて参りました」と、小柳衛氏を悼み「大空位時代」を演奏したのは2021年のオーチャードホール。その光景をまた、鮮やかに思い出した。

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setlist

01. 闘争のエチカ
02. 京マチ子の夜
03. Caravaggio
04. 嵐が丘
05. 小鳥たちのために II
06. 色悪
07. Killing Time
08. ルぺ・べレスの葬儀
encore

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05月02日(木)
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