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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『スパークス・ブラザーズ』
着々と変化するミュージックシーン、度重なるメンバーチェンジ、数年ごとに変わる活動拠点。常に自分たちのつくりたいものを第一に、兄弟は激しい浮き沈みを乗り切った。映画のハイライトともいえる6年の空白は、彼らの音楽への情熱と勤勉さを語る上でも貴重なパート。契約を切られ、作品を発表する場を失い、収入もない。それでも創作意欲の衰えない彼らは、ラッセルが自宅に構えたスタジオに毎日通い続けた。このスタジオ設立もそうだが、「セックス、ドラッグ、ロックンロール」と無縁で、ふたりに浪費癖がなかったことが吉と出た。というのは今だからいえることで、未来の見えない日々はさぞ苦しかっただろう。ラッセルがレコーディング・エンジニアの勉強を始めていたという証言には胸がつまる思いだった。
同様に、二度頓挫した映画の企画を経て『アネット』が完成したことも感動的だ。撮影現場にいる兄弟は、とてもいい顔をしていた。
彼らはアートに人生を捧げている。流行に迎合せず、自分たちの音楽を追求し続ける。ラッセルはジムでのトレーニング、ロンはウォーキングを欠かさない。ラッセルの美声が衰えないところにも、彼らの節制ぶりが窺える。ツアーに出ていない日は会社に通勤するようにスタジオへ通う。同じカフェで休憩する。この強さはなんだろう。兄弟だからなのか……いやいや、oasisという例があるじゃないか、ジザメリもな。ギャラガー兄弟とリード兄弟のそれはそれで魅力なのだが…いや、それが魅力という訳ではないか、彼らは彼らでああやるしかないんだよきっと……。不思議かつ興味深いのは、そんな生真面目なメイル兄弟のが生み出した作品がユーモアに溢れ、ストレンジかつファニーなところ。奇妙で不条理、ときには悪趣味とすら捉えられてしまう。制作に励めば励む程、彼らは唯一無二の道を切り拓き、数々のフォロアーを生み出し続けるのだ。
このドキュメンタリー撮影が始まったのは日本からだったそうで、ライヴだけでなく寅さんファンのふたりが柴又散策する様子もとりあげられていてうれしかった。この辺り、長年彼らをずっとサポートし続けている岸野雄一さんの力が大きいと思う。岸野さんと一緒に上野耕路さんが映ってる写真が出たのも個人的にはツボでニヤニヤ。
「今」スパークスのドキュメンタリーが撮られた意義は大きい。MIDNIGHT SONICのステージ映像、皆笑顔のなかただひとり泣きそうな顔で彼らを見つめる観客が印象的。スパークスの音楽には、喜び、悲しみ、痛み、快楽がある。それを伝えてくれる映像だった。あの瞬間を捉え、そして作品に残してくれたライトに感謝します。
しかし、スパークスはまだまだ続くのだ。彼らがいうように、医療が発達したら300枚のアルバムを残すつもりだそうだから。皆元気で、また日本に来てください! とかいってたらソニマニ決まった!!(書いてるのは12日) 無事いらしてください!!!
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・日本版予告
この予告サムネイル画像を「フェスのラインナップみたい」と評していた方がいたけど、ホントそう。この多彩で大量な証言者たち! ビョークのインタヴューが音声のみというところにも今を感じます。モリッシーがいないのが不思議っちゃあ不思議なんだけど、近年の彼の言動を受けて訣別したかららしいですね(…)
・スカート澤部渡が深堀りインタビュー!『スパークス・ブラザーズ』 エドガー・ライト監督初の音楽ドキュメンタリー┃BANGER!!!
スカート澤部渡さんによるインタヴュー。アメリカ的なるもの、そしてヒップホップへの言及を引き出してくれて有難い
・SPARKSのユーモアは取扱注意。キャリア半世紀超、アウトサイダーを貫く兄弟バンドが語る実験精神┃CINRA
「ポップミュージックにおいては、ユーモアを使うと真剣じゃない、と思われてしまう。ユーモアを使わずにシリアスでいた方が評価されがちなんだけど、ぼくらはそれが良いとは思わないし、それで無視されても平気だったんだ」(ロン)
村尾泰郎さんによるインタヴューと、キャラクターやアートワーク、歌詞、そして『アネット』へと拡がる考察。ジャンルを俯瞰した素晴らしい記事
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04月09日(土)
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