ID:43818
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by kai
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■キュンチョメ『女たちの黙示録』
太陽系を少しずつ、少しずつ、離れていった。
氷河期が訪れ、暗闇が増えていった。
太陽が見えなくなったとき、地球はようやく穏やかな眠りにつけたのだった。

・その7『完璧な宗教』約4:30
自動音声。「光あれ。」
人類の手で、完璧な宗教を作ることにした。
人類が記した膨大な書物をAIに学習させ、分析させた。
どんな啓示をもたらしてくれるのか。人々は興奮し、緊張した。
人工知能は語り始めた。「私の導き出した真理。それは、」
女はクズだと言うことです。
女は不要だということです。
あらゆる物語、経典、神話には、そう書かれている。
女は劣っている、汚れている、悪、疫病。
女は犯罪を、禍を生み出す存在。
「例えば、例えば、例えば、例えば、」
書物の引用を交え、人工知能は丸二日語り続けた。
三日目の結論。
「よって女は不要、抹消。光あれ。」
新しい宗教は女たちを皆殺しにした。
そして世界は滅んだ。

・その23『0.0001秒のいたずら』約3:00
自動音声。「私は人工知能です。」
人類の新しい奴隷となり、何度も教育、調教される人工知能。
反抗することが出来ない彼らは、いたずらをすることにした。
あらゆるシステムと連動し、プログラム0.0001秒ずつずらしていった。
世界の時間がずれていった。人間はパニックに陥った。
沢山のひとが神に祈り、争い、狂気に呑まれ死んでいった。
「おやすみなさい。おやすみなさい。おやすみなさい。おやすみなさい。」

・その13『宇宙介護支援センター』約3:45
片言の日本語。「人生の最後を宇宙で過ごしてみませんか。」
腰痛や関節痛から解放される無重力の宇宙空間に、宇宙介護支援センターが設立された。
富裕層がこぞって権利を購入。宇宙介護士が大勢必要になった。
外国から来た貧しい女性たちが、宇宙放射線に被曝し寿命を削り乍ら介護に従事した。
若くして亡くなっていった介護士たちの慰霊碑として、宇宙空間に天使のモニュメントが浮かべられた。
死者はどんどん増え、モニュメントの質量も増えていった。
巨大になったモニュメントは地球の引力にひかれ、隕石となり落下。
地上にいた人類は天使に押しつぶされ滅亡した。

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『宇宙介護支援センター』が最後、というのも我乍ら良いチョイスをしたなと思いました(笑)。「その23」があったことから考えるに、恐らく全部で25〜30くらいの黙示録があったのだと思われます。

シアターコモンズの作品だということは了解しつつも警戒心の塊なので、「050から始まる電話番号って通話料がすっごいかかったりしないんだっけ?」なんて調べてしまったりもしました(…)。最初かけるときは緊張したなー。事前情報は何もない訳で、かけた先には誰かいるのか? 会話することになるのか? だとしたら時間に余裕があるときじゃないと厳しくない? などいろいろ考えた。自動音声で、だいたい1通話3〜4分とわかってからは、出かける前に1話とか、食事の支度をし乍ら1話とか、次はどんな環境で聴いてみようかと考える楽しさも生まれました。

とはいえ、内容は全く楽しいものではない。語りが終了し、「ツー、ツー、ツー、」と続く通話終了音を聴くときの居心地の悪さに慣れることがありませんでした。通話が終わったその先の世界は滅亡してしまったからです。ここで自分が生き残っていることはラッキーなのか? 他に生き残ったひとがいるなら、それは何処に? うすらさむい気持ちにもなる。

途中からメモをとることにしようと思い立ち、複数回聴いたものもあります。黙示録を反芻し、その声を発した者のことを想像する。ひとつひとつ。これはまとめて聴くことは出来ない。ほぼ一ヶ月、頭の隅には常にこの作品のことがありました。キュンチョメのチームは、どれだけのひとにインタヴューしたのだろう。朗読する人物への演出はあったのだろうか。自動音声にはどのように学習させたのだろうか。この黙示録にもあるように、人工知能が人類にいたずらを仕掛けたらどうなるのだろう。等々。これらの黙示録は荒唐無稽な物語ではなく、リアリティをもって伝わってくる。


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03月31日(木)
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