ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『エリア50代』
ジャケットとパンツ、ノースリーブのシャツ、スリッポン。登場時と同じ服で(何なら家からこの格好で来たんじゃないのとも思わせる)、ピンマイクだけ外してもらうとするりと始められました。まさにフェードイン。音楽に合わせふわりと身体を揺らす。軽く跳ねる。滑るようなステップ。穏やかなままの表情。深夜、クラブ、ハウスミュージック……あっという間にイメージが眼前に現れる。感覚的にはいちばん自分の嗜好と近い音楽とダンス。音楽が誰のものかわからなかった。格好よかった、知りたい!
ご本人は自然体のまま(そう見える)時間と空間を引き寄せていく。いや、時間と空間の方が彼の方に吸いついてきたかのよう。クラブで「うわっ、このひと、いいな。雰囲気もダンスも」と一歩下がって眺めている錯覚に陥りました。そういう意味でも、欲求を喚起させる作品だった。音楽にも、ダンスにもどっぷり溺れたい。つまりそれは、快楽。
■近藤良平(53)『近藤良平』
振付・演出:MIKIKO
ブラウン管のテレビ、ちいさな卓袱台、ちいさな椅子、ノートパソコン(Mac)、アコーディオン、トイピアノなどが運び込まれる。タイトルがタイトルなので、近藤さんがこれ迄の人生で触れてきたものたちなのだなと思う。テレビで流れていたのは『トムとジェリー』。英語ではなかったので、近藤さんが幼少時住んでいた南米版かな?(後に判明)
スーツに着替えて登場した近藤さん、椅子に座ったり、Macを操作したり、楽器を演奏したり。そうした動作にMIKIKOさん特有の手の動き、足のスライドが加わる。あーまさにMIKIKOさん! と同時に、圧倒的に近藤さんのダンスになっている。細やかな振り、なのに全体像はダイナミック。これはすごい。
終盤に流れてきたのはThe Bangles「Walk Like an Egyptian」。「エジプト人のように歩きなさい」……帰宅後検索して、コーランに「道を歩くなら、正々堂々と歩きなさい」という教えがあることを知る。近藤さんの、MIKIKOさんの、あらゆるひとの人生を思う。感動的な幕切れでした。
■小林十市(52)『One to One』
振付:アブー・ラグラ
音楽:モーリス・ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』、ガブリエル・フォーレ『パヴァーヌ』
衣裳:キャロル・ボワソネ=ラフォン
テーブルを使ってのダンス。腰に負担がかからないようにという配慮もあるのかもしれないが、両手で激しく叩くと演説を行っているようにも見えるし、身体を委ねると机そのものがパートナーのようにも見える。とてもドラマティック。テーブルに衣裳がひっかかるハプニングあり。一瞬のことだったのでこれも振付? などと思う。長い裾がドレスのようで素敵だけど、踊りづらそうな衣裳ではある。
しかしその衣裳をして伸びる腕、脚、身体の線の美しさ。逆の意味でダンサーの力を思い知る。
故人を偲ぶようにも、自身の身体、年齢と向き合っているようにも感じられる選曲と表情。王女のための曲ではあるが、やはりここはベジャールさんを思い出す。ひいてはダンサー本人にも。ひとは誰でも生まれた瞬間から死へと向かっている。何を思っている? 想像力が掻き立てられる。そう、今回のお三方は、観る側の想像力を自由に解き放ってくれるダンサーだった。
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プレ/アフタートークで面白かったこと、印象に残ったことなどおぼえがき。便宜上内容が前後していたり、編集しているところもあります。間違い等ありましたらお知らせ頂ければ助かります。
伊藤:聴いてきた音楽はツェッペリンとか。バンドもやった、ギター担当
小林:こどもの頃はジュリー、西城秀樹、洋楽だとデュランデュランとか
世代は同じだけど微妙に路線が違ってて、普段どんな曲で踊ってるんですか? と訊かれた伊藤さんが「Underworldとか…」といったら、ふたりからも観客席からも反応が薄くてボソッと「あ、知らないか……」と寂しそうにいってたのにちょっとウケた。し、知ってます! 大好きです! と手をあげたくなった(いらぬアピール)。
伊藤:靴は現場のゲンさんの作業靴。靴底の溝を、自分でフェルトで埋めて履いてるの。いろいろ試してみたけどこれが丁度いい
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09月25日(土)
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