ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■中野成樹+フランケンズ『Part of it all』
子どもたちにどういう演出が施されていたかは判らない。「普通に遊んでていいよ」だったのか、ジェリーを演じる役者(田中佑弥)には近づかないでね、だったのか。彼らは極めて自然だった。観客に近づいていった子もいたし(近づかれた観客とその周囲のひとたちが、笑顔でその子に手を振ったりする光景が微笑ましい)、お父さんから離れない子もいた。ジェリーの邪魔をする子はひとりもいなかった。しかし、ピーターたちは子どもの安全のため、ジェリーを排除しようとする。スマホに撮影して証拠を残し、(おそらく)通報するためひとりがその場から離れる。「ジェリーと犬の物語」は真剣な聴き手を失い、「はいはいはい」「うんうん」「そうねー」といった感じで受け流される。彼は何を伝えようとしているんだ? という疑問はそこにない。

この辺りから、演者たちは「ジェリーと犬の物語」をやりきれるんだろうか? と手に汗握り始める。ピーターたちの妨害に遭いながらも、ジェリーの台詞はちゃんと進行していたからだ。トイプーにあげるハリボーを日々買いに通うため、そのコンビニの店員たちからハリボーというあだ名をつけられている、という情報も加わり、トイプーの飼い主の描写もきちんと語られる。

かくして「ジェリーと犬の物語」はヨロヨロしつつも前進し、「いいたいことは全部いった!」というジェリーが宣言する。「(この状況で)よくやりきった!」というカタルシス、子どもがその場にいることで『動物園物語』の味わいがこうも変わってくるのだなあ……という驚きが残る。

ジェリーは自分の話を聞いてくれるひとりのピーターを探さなければならないが、屋上を横切る「青い服」のピーターにジェリーは気づかない。ジェリーの目には見えない、死者としてのピーターはあらゆる場所にいるのだ。しかし子どもには、その青い服のピーターが見えている。大人になって得るものと失うもの。ひとが一対一で向き合うことが難しい現代社会。そんなことをむむむと考え込む観客の頭上には、どこ迄も青い空が拡がっているのでした。知っている(観たことのある)役者は田中さんだけでしたが、一癖も二癖もあるキャラクター揃いで目も頭も忙しかったです。終わってみれば全部合わせて70分。この上演時間でこんなに濃密な演劇体験が出来るとは。

2004年に書き下ろした「ホームライフ」を第1幕、「動物園物語(ピーター&ジェリー)」を第2幕とした『At Home At The Zoo』で「ひとつの作品」と宣言したオールビーだけど、これを観たらどう思うかな? 観てもらいたかったじゃん? なんて思いました。この日観た誤意訳(特に屋上での)は「ホームライフ」と繋がっていると感じたからです。上演前のトークによると、『At Home At The Zoo』は、日本ではシアタートラムで一度上演があっただけじゃないかとのこと。堤真一、小泉今日子、大森南朋が出演したシス・カンパニーの公演のことだと思いますが、そうかー、これ以来やってないのか。オールビーはその後『動物園物語』の単独上演は認めない等と発言し2016年に亡くなりましたが、そういう意味でも『Part of it all』は『At Home At The Zoo』を上演したことになるのでは? と思いました。終演後に屋上から見た青空と江古田の風景含め、今年の夏の思い出がひとつ。

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真夏の屋外を含む上演につき雨天決行、荒天中止と事前にお知らせ。傘は差せないよな、帽子を持っていかなくちゃ。ポカリも持っていこう。最近はいきなり雨降ったりもするし、合羽もいるかな? とこまごま準備して行きましたが(フェス仕様・笑)結果的にどれも使うことがありませんでした。

飲料水だけでなく冷えピタ、冷シート、塩タブレットも用意されており、屋上へ出るときは服にかけても染みが残らない冷感スプレーを「かけたいひとは来てくださーい」とかけてくれる。屋上では立ち見だと思っていたら、「これから椅子を移動させますのでお待ちくださーい」と廃墟スタジオから運んだ椅子をテントの下にセッティング。これがまたスピーディー。受付時にもらったポストカード仕様のチケットにはデジタルパンフレットにリンクさたQRコードがついていました(その後メールでもURLが送られてきた)。素晴らしいホスピタリティ、有難うございました!

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07月18日(日)
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