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by kai
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■NODA・MAP『フェイクスピア』
ここからは個人的なこと。前述の白石さんが不調だったという情報は、先週SNSから入ってきた。心配であちこち見てまわっているうちに、「CVR」という単語が目に入った。『CVR チャーリー・ビクター・ロミオ』のことだ。観逃しているが、上演当時話題になったのでこの作品のことは知っていた。ということは、飛行機事故で残されたボイスレコーダーの言葉が用いられるのかと思い至る。では、どの事故が? 野田さんは過去『二万七千光年の旅』でウルグアイ空軍機571便遭難事故をモチーフにしている。

開演してすぐに、「どの事故」かが判明する。「18時56分」、「あたま下げろ」「あったま下げろ」。日本航空123便墜落事故だ。能舞台を模した装置には、飛行機の圧力隔壁を思わせるプレートが折りたたまれている。「これはダメかもわからんね」「どーんといこうや」「がんばれがんばれ」。物語が進み、その断片はますます増える。『カノン』で須藤理彩が演じた猫のような気持ちになる。行ってはダメだ。お父さん、息子を残してあの飛行機に乗ってはダメだ。そんな思いが届く筈もない。

四月に上演された『キス』の頁にも書いたが、丁度『日航ジャンボ機墜落―朝日新聞の24時』を読んだばかりだった。帰宅後パンフレットを読むと、まさに同じ書籍が参考文献として記されていた。鳥肌が立つ。そもそも、飴屋法水と山川冬樹は『グランギニョル未来』でこの事故のことを取り上げている。そして自分は、何故かこの事故のことがずっと忘れられず、関連書籍を見つける度に読んでいる。『朝日新聞の24時』はbooklogのフォロワーさんの読書履歴で知り、今年に入って古本で取り寄せた。偶然とはいえ、ちょっと因縁めいたものを感じて考え込んでしまった。

この『朝日新聞の24時』に掲載されているボイスレコーダーの記録は、元の音声も、テキストに起こしたものも、広く一般に開示される以前からweb上にあった。今もある。リンクは張らないでおくが、興味のある方は探してみてほしい。これをフェイクと呼べるか? ふと、この記事を思い出す。「新型コロナ禍で、世界を回って、見て、聞くこと自体が貴重なことになった。それは同時に、行って、見て、確かめることができにくくなることを意味している。こうした時代はフェイクには弱い」。言葉を運んでくれる方々に敬意を。

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・ひとつ確認したいこと。今回の客入れの音楽(作曲家、歌手等)って、全員故人でしたか? ご存知の方いらっしゃいましたら教えてください。自分が気づいたのはカート・コバーン、ルー・リード、レイ・ハラカミ、大瀧詠一の4人でしたが、皆そうだったのかなって……単なる興味ですが意図的なのかどうか気になりました

・たまたまなのかも知れない。NODA・MAPの客入れは懐メロも多いので、亡くなっているひとが多くなっても不思議はない。しかし、ハラカミくんの「Owari No Kisetsu」(細野晴臣「終りの季節」のカヴァー)が流れたことが引っかかった。他のアーティストは過去の公演でも流れていた気がする

(20210616追記)
・ハラカミくん−細野さんもだけど、「夢で逢えたら」も吉田美奈子の方ではなく、大瀧詠一がセルフカバーしたもの(彼の死後2014年に発表されたもの。ちなみにこのver.のストリーミングが開始されたのは今年の4月24日)を使ってたから、やっぱり何か意図的なものを感じる

・意図的だとしたら、やはりこの作品は死者がかつて生み出したもの(歌詞にしても、曲にしても)への敬意を意識したものなのだと思う

・それをいったら、初日が5月24日だったのも偶然なのだろうか。123便の乗員乗客は524人だった

・それにしても、シェイクスピアの登場シーンが相当ふざけててしばらく笑いが止まらなかったですね……。音楽、踊り、ひとを小馬鹿にした笑顔。何あれ。野田さんってつくづくナトキンに似てるわ

・って、検索したらピーターラビットシリーズが青空文庫にあってびっくりした……(のでリンクを張った)。2014年に著作権が切れてパブリックドメインになったんですね。時代を感じた

06月05日(土)
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