ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
歴史上の人物の肉体化、といえばこのひとも。押され気味の学生たちのなかから鮮烈に現れたのは芥正彦。寺山修司や土方巽をちょっとでも掘ったことのあるひとは誰もが目にしたことがあると思われる名前だが、その実体を初めて目にした。おかっぱ頭に口髭、グレーのモヘアニットに赤いタータンチェックのパンツ。タバコをくゆらせ、赤ん坊を抱っこして(! この子がまたかわいいのよ〜、けろっとしてるし!)、突然議論に参加する。すごいインパクトだった、このひとが芥正彦! 映画としての演出もあろうが、なんて劇的な登場シーン。議論は平行線を辿るも、ひとつのヤジを境に芥と三島はまるで共犯者のような関係を結ぶ。三島のタバコに芥が火をつける。ギャラリーからどよめきと拍手が起こる。これも劇的。ふたりは「見られる」ことで、900番教室を劇場に変える。
感想ツイートでも散見されたが、芥を筆頭に東大全共闘の学生たちは50年後の今見ても「イケメン」が多い。面構えといえばいいだろうか、皆まっすぐで、堂々としている。ヤジを飛ばした学生でさえ、出てこいといわれれば逃げることなく前に進み出る。こんな熱い日々を過ごしてなお、半世紀も生き続けているひとたちのことを思う。その時間の途方もなさ。討論会の翌年三島は自決し、程なく全共闘運動は終焉に向かう。「敗北」という言葉をあえて使い、監督は生き残りに問う。その総括はどう果たされたか、と。それに対する元東大全共闘、元楯の会のメンバーの答えにこそ、今作がつくられた意義があるように感じた。天皇について三島に鋭い質問を投げかけた小阪修平の今の言葉を聞きたかったが、彼も既に鬼籍のひと。口を閉ざし続けてきた何人かが今回取材に応じたのも、残された時間がそう長くないと感じているからだろう。
国家権力に対する解放区は空間か時間か。三島と芥は議論する。その後三島は死によって時間を手に入れ、芥は表現により空間を手に入れる。討論会の終盤、三島は言霊について語る。言葉は魂を宿し、時間と空間を超え、50年後を生きる者たちの心を捉える。
昔はよかったなんて思わない口だけど、こんな討論が成り立つ時代をつい羨ましく思ってしまった。三島の憂国と、自分が抱いている国への憂いはどこかで繋がっているのだろう。
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【公式】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』3.20(金)公開/本予告
映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』が大反響のようですね。マスクをつけてどうぞ。くれぐれもコロナウイルスと芥正彦の毒気にはお気をつけください。
芥正彦、今も敵は変わっていないようです。抱っこされていた赤ちゃんと久々の再会。 pic.twitter.com/gNutoiD7UO― 熊谷朋哉 (@tomoyakumagai) March 21, 2020
あの赤ちゃんの今の姿! 変わらず愛らしい!
・三島由紀夫の魂の演説! 伝説の討論会を13人の証言者と紐解く衝撃のドキュメンタリー映画解禁!!「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」┃カドブン
・『完全版 平凡パンチの三島由紀夫』椎根 和┃河出書房新社
こんなのも出てた、読んでみよう。映画にも登場していた椎根和によるノンフィクション
・音楽は遠藤浩二。『初恋』も素晴らしかったし、こちらもサウンドトラック出してほしいな、音源ないかなー
・東大駒場キャンパス、アゴラ劇場に行ったとき校内のレストランでランチ食べたりしてたんで見覚えのある外観がドカドカ出てきて「変わってない……!」と思った
・3月にムビチケを買い、いつ行こうかな〜と思っているうちに次々とミニシアターが閉まっていった。4月に入ると緊急事態宣言が発令され、エンタメのハコは軒並み休業に追い込まれた。うーむ、再開されたときこのムビチケは使えるのか? 公開延期になっている新作が沢山あるし、スクリーンのとりあいになってしまうだろうから……とヤキモキ。再開の知らせを受け、サイトの上映スケジュールに今作タイトルを見つけたときには思わずガッツポーズしましたよね。観られてよかった!
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06月06日(土)
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